お葬式の後で参列者にふるまう食事のことを『精進落とし(しょうじんおとし)』といいます。
お葬式について遺族と話をしているときに「精進落としはどこですればいいですか?」と質問されることがあります。
お坊さんの僕としては、精進落としをする場所は【火葬場】がおすすめです。
この記事では、
- 精進落としの意味
- 火葬場で精進落としをする【メリット】と【デメリット】
- 式場に戻ってから精進落としをする【メリット】と【デメリット】
について解説しています。
お葬式と精進落としはセットみたいなものなので参考にしてみてください。
精進落としをする場所はどこがいい?
多くの場合、お葬式の後に『精進落とし』をします。
では、精進落としをする場所はどこがよいのでしょう?
『精進落とし』の意味
まずは、『精進落とし』の意味を説明します。
あなたは《精進料理》をご存じですか?
精進料理とは、肉や魚などをまったく使わない料理のことをいいます。
他にも、動物性の油やタレ、匂いと刺激の強い野菜、辛い調味料なんかも一切使わず、例えば、
- かつお出汁の入った醤油はダメ
- 納豆は大丈夫だが、付属のタレ【カツオだし】はダメ
- みそ汁は【昆布出汁】のみ、それ以外はダメ
- 七味や和唐辛子はダメ
- ネギ・ニンニク・ニラはダメ
というカンジです。
精進料理は、仏教の【生き物を殺すな、刺激を追い求めるな】というお釈迦様の教えを守りながら食事できるように考えられており、さらに慎ましやかな生活を送るための料理でもあります。
そのため、ずっと昔は、家で不幸があると、故人の冥福を祈り派手な行動を慎むという意味で、家族は49日を迎えるまでの間《精進料理》を食べていました。
そして、49日を過ぎると、また普段の料理に戻します。
じつは、この49日で《精進料理》から《普段の料理》に戻すことを『精進落とし』というのです。
もしかすると「あれっ?前に参列したお葬式の食事でも『精進落とし』と言ってたけどな。」と思ったかもしれませんね。
そうなんですよ、たしかに現在では【精進落とし=お葬式後の食事】になっているんですよね。
本来であれば49日までは精進料理なのですが、お葬式には多くの人を招いているので【おもてなし】を重視したんです。
参列者に料理を美味しく召し上がってもらい、満足してもらうことを優先するために《49日までの期間を前倒し》させて、何の制限もない通常の料理を振舞うようになりました。
これが慣習化して、現在の【精進落とし=お葬式後の食事】となったのです。
ですから、精進落としの料理は、参列者への【おもてなし】として、美味しく満足してもらえるような品目を選びましょう。
精進落としをするなら火葬場がおすすめ
お葬式の式場は、
- 葬儀社のホール
- 公営の葬儀式場
- 自宅
- 自治会館
などがあります。
これらの葬儀式場で精進落としをすることもできますが、僕としては葬儀式場ではなく『火葬場』で精進落としをするのがおすすめです。
火葬場であれば後述する多くのメリットがあるので、地域の習慣などで問題がなければ火葬場での精進落としを検討してみてください。
ちなみに、お葬式後の食事に関する仏教的な決まりはありませんので、場所をどこにするかはあなたの自由です。
火葬場で精進落としをするメリットとデメリット
ここからは、火葬場で精進落としをした場合のメリットとデメリットを紹介します。
火葬場で精進落としをするメリット
火葬場では、収骨までの間、参列者は待合室で待機します。
その時間は約1時間〜1時間半くらいですかね。
多くの場合、この『収骨までの待ち時間』を精進落としの時間にあてます。
これにより、
- 収骨までの待ち時間を有効に使える
- 食事をする時間帯をお昼近くに寄せられる
- 火葬場で解散することもできるので、その場合は参列者の拘束時間を減らすことが可能
などのメリットがあります。
収骨までの待ち時間を有効に使える
お葬式に参列している人たちは、公私ともに忙しい中わざわざ時間を作って来てくれています。
そこで、【精進落とし】という形で料理を振る舞うことで、収骨までただ待たせるのではなく、食事をしてもらいながら収骨までの時間をすごしてもらうことができるんですよね。
これにより、収骨までの時間を有効に使うことができるので、火葬場で食事をすることは時間の有効活用という点で大きなメリットになります。
また、人間は物を食べるとリラックスするので、参列者をお葬式の緊張感から少し開放してあげることもできます。
食事をする時間帯をお昼近くに寄せられる
お葬式は午前中に執り行うことが一般的です。
そうすると、お葬式そのものにかかる時間と葬儀式場からの移動時間などで、火葬場に到着するのはだいたい【お昼〜午後2時頃】になります。
つまり、火葬場で精進落としを振る舞うことで、普段の【昼食】に近い時間帯で参列者の方々に食事をしてもらえます。
火葬場で解散できるので、参列者の拘束時間を減らせる
収骨が終わると、喪主が参列者へ会葬のお礼を述べて解散をするという流れになります。
火葬場で精進落としを終えていれば、その場で解散することが可能となります。
遠方から来た参列者にとっては解散時間が早くなることは正直なところ【助かる】はずです。
このように、火葬場で精進落としをすることは、時間を無駄なく有効活用できる点が最大のメリットとなりますね。
火葬場で精進落としをするデメリット
火葬場で精進落としをすることにはデメリットもあります。
それは、
- 食事をしている時間にあまり余裕がない
- 部屋が少しだけ狭い
- 他の家(他の葬儀の家)の人たちが大勢いる ※隣が騒がしい、トイレが混むなど
- そもそも火葬場の雰囲気自体が苦手な人にとっては苦痛
といったことです。
食事をしている時間にあまり余裕がない
火葬場で精進落としをする最大のデメリットは、『食事をしている時間にあまり余裕がない』ことです。
最近の火葬技術はずいぶん向上し、以前に比べると火葬時間がかなり短くなりました。
これにより、精進落としの時間も短縮せざるを得なくなり、あまりゆっくりと食事をしていられなくなりました。
とはいえ、収骨まではどんなに早くても1時間程度はかかりますので、慌てて料理を口へかき込むということはありません。
部屋が少しだけ狭い
また、火葬場の食事をする部屋はさほど広くはありませんので、参列者が多い場合は少し狭く感じてしまうかもしれません。
ただ、長時間そこにいるわけではないですし、逆に皆で一緒に話がしやすくて良いかもしれません。
他の家(他の葬儀の家)の人たちが大勢いる
火葬場では他の家の人たちも同じように食事をしています。
そのため、壁一枚隣には他の家の人たちの声が聞こえてくることもあります。
また、タイミングによってはトイレが混んでしまうこともあるんですよね。
他にも大勢の人がいることは何かと気を遣うことになるのでデメリットになってしまいます。
そもそも火葬場の雰囲気自体が苦手な人にとっては苦痛
火葬場というのは一般的にはあまり良いイメージの場所ではありません。
ましてや、たくさんのご遺体が火葬されている場所ですから、気分的にできるだけ火葬場に滞在したくないと思う人もいます。
そのような人にとっては火葬場での精進落としは苦痛な時間になってしまうことがあるんですよね。
葬儀式場へ戻って精進落としをするメリットとデメリット
僕としては火葬場での精進落としをオススメしていますが、葬儀式場に戻ってから行うという選択もあります。
ここからは、葬儀式場に戻ってから行う場合のメリットとデメリットを紹介していきます。
なお、式場に戻る場合、収骨までの間は簡易的な食事(『おしのぎ』といいます)だけで済ませるというケースがほとんどです。
葬儀式場へ戻って精進落としをするメリット
葬儀式場に戻ってからの精進落としには、
- 時間に余裕があるので、ゆっくりと食事ができる
- 他の家(他の葬儀の家)の人たちがいないので、少しくらい騒いでも大丈夫 ※葬儀式場によっては他に1〜2組ほどいるかもしれません
- 食事の部屋を広々と使える
といったメリットがあります。
時間に余裕があるので、ゆっくりと食事ができる
火葬場のように収骨までの時間内に食事を終える必要がないため、比較的ゆっくりと食事ができます。
しかし、時間があるといっても式場の使用可能時間は決まっていますのでご注意ください。
他の家(他の葬儀の家)の人たちがいない
葬儀式場の場合、火葬場のように他の家の人たちが大勢いるということはありませんので、余計な気遣いをせずにすみます。
少しくらいであればワイワイと騒いでも他の家に迷惑をかけてしまうなんてことはありません。
ただし、大きな式場の場合は他の家も精進落としをしていることがあります。
食事の部屋を広々と使える
多くの葬儀式場には食事をするための部屋があります。
火葬場に比べると広々としているので、ゆったりと使うことができます。
このように、葬儀式場に戻って精進落としをすることは、火葬場での食事よりもゆったりと余裕をもって食事の時間とスペースを取れるところがメリットになります。
葬儀式場へ戻って精進落としをするデメリット
続いて葬儀式場に戻ることのデメリットは、
- 食事の始まる時間が遅くなる
- 解散の時間が遅くなる
この2点になるかと思います。
食事の始まる時間が遅くなる
葬儀式場に戻る最大のデメリットは『食事の始まる時間が遅くなる』ことです。
お葬式がとても早い時間に始まるのであれば問題はありませんが、そうでなければ、お葬式開始〜式場に戻ってくる時間を考えると、食事が始まる時間は午後2時30分〜4時となってしまいます。
火葬場での軽食があるとはいえ、これでは、参列者の方々はお腹が空いてしまいます。
解散の時間が遅くなる
精進落としの始まる時間が遅くなるということは、解散の時間もそれだけ遅くなるということです。
遠方から来ている人は帰宅時間が遅くなってしまいますし、場合によっては宿泊を余儀なくされることもあるかもしれません。
やはり、一度葬儀式場に戻ってからの食事だと全体的に時間が遅くなってしまい、喪主も参列者もその分だけ疲れてしまいます。
それ相応の事情がない限り、葬儀式場に戻ってからの精進落としは避けた方がよいとぼくは思います。
精進落としのときは少しくらい笑い声があってもいい
ここで1つお知らせします。
お葬式でも、精進落としのときは少しくらい笑い声があってもいいですよ。
お葬式のときって、何となく『笑ってはいけない』という雰囲気がありますよね。
お葬式という悲しみの場で笑うことは【不謹慎】だと考えられているのですが、それってどうなんですかねぇ。
僕は、少しくらいは【笑い】があってもイイんじゃないかなと思いますよ。
僕の経験からすると、精進落としをする頃になれば喪主やその家族もだいぶ落ち着いていますし、べつにその場もシーンとしてるわけではありません。
チラホラと笑い声も出ていますし、みなさんワイワイと食事をされていますよ。
小さなお子様達が参列しているときなんかは、退屈なのかお子様が楽しそうに騒ぎ出すなんてことも普通の光景ですから。
お葬式なので当然ながら悲しいんですけど、食事くらいの頃になると、おそらくそれなりに故人の死を受け入れ始めているんじゃないかと思います。
それで考えてみたのですが、逆にみんなが笑ってあげることで、故人としては安心できるのではないでしょうか。
故人からすれば、自分の家族みんながずっと泣いて悲しんでいたら、心配であの世に行きづらいと思いませんか?
それよりも、少し笑い声があるくらいの方が、故人も安心して旅立てると思いますよ。
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まとめ : 精進落としをするなら火葬場が最適
お葬式で参列者に対する【おもてなし】となる精進落とし。
みんな、忙しい中で時間をとって故人にお別れをしに来てくれたので、できるだけ参列者への配慮をすべきでしょう。
精進落としは葬儀式場でもできますが、参列者の負担などを考えると『火葬場』で行うのがおすすめです。
火葬場で精進落としをすれば、少し忙しくはなりますが、時間を有効活用できます。
火葬場で食事ができる時間はおよそ1時間~1時間半ですが、この時間でたくさん故人の思い出話をしてあげてください。
※喪主をする人に読んでもらいたい記事です。