お坊さん歴20年以上の未熟僧と申します。
- お通夜はせずにお葬式だけじゃダメなの?
- お葬式は簡単な形式にして、できるだけ費用を抑えたい。
- 『一日葬』のメリットとデメリットは何だろう?
近年、お通夜はしないでお葬式だけを執り行う『一日葬』が急増しています。
一日葬は、一般的なお葬式よりも費用が抑えられ、さらに心身ともに負担を軽減できるので喪主や遺族にとってメリットが大きい葬儀形態です。
お坊さん目線で見ても、今後は『一日葬』がお葬式の主流になると思います。
ただし、一日葬にはメリットだけでなくデメリットもありますので、家族でよく話し合ってから決めることが大事です。
この記事では、
- 『一日葬』とは何か
- 『一日葬』が主流になる理由
- 『一日葬』のメリットとデメリット
について書いています。
『一日葬』をしたいとお考えのあなたに役立つ情報を書いていますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
『一日葬』とは
近年では、お通夜をしないでお葬式だけを執り行うケースが急増中です。
お通夜を省略してお葬式だけを1日で執り行うことを『一日葬(いちにちそう)』または『ワンデーセレモニー』といいます。
『一日葬』の大まかなスケジュールは、
- 《お葬式前日》納棺をし、式場に遺体を搬送する(お葬式当日にする場合もあり)
- 《お葬式前日》お通夜はせずに、自宅で家族と共に過ごす
- 【お葬式当日】葬儀・告別式・出棺する
- 【お葬式当日】火葬・精進落とし(=会食)
- 【お葬式当日】収骨・解散
というカンジです。
僕が初めて『一日葬』をお勤めしたのは今から10年くらい前ですが、かなり違和感があったのを覚えています。
なにしろ一日しかないですから、お葬式で使う仏具の準備、司会の方と打ち合わせ、式前の喪主へのご挨拶など、それまでお通夜のときにしていたことをすべてお葬式の当日に行うのでバタバタしました。
それ以来、葬儀社から依頼されるお葬式でも『一日葬』が増え、今ではすっかり慣れたもんです。
試しに統計(※僕がいる寺だけのデータです)をとってみましたが、葬儀社から受けたお葬式の依頼のうち、一日葬の割合は41%(正確には40.8%)でした。
今後この割合が増えていくことは間違いありませんが、1つ気になることがあります。
たまに、
と言う人がいますが、その考え方は少し違います。
一日葬にするかどうかの判断基準は『参列する人数』ではなく、喪主や遺族が『故人のお葬式に対してどのように考えているか』です。
お通夜とお葬式の両方をして《丁寧に供養する》のか、あるいは、お葬式だけで《省略して供養する》のか、家族としてどのように故人を弔ってあげたいのかを考えましょう。
僕は今までに、喪主も含めて参列者が3~5名でお通夜とお葬式をお勤めしたことは何度もあります。
そのときの喪主さん達はみんな、
と言っていました。
再度言いますが、一日葬にするかどうかは『参列する人数』だけで決めないでください。
どのような形で故人を送り出したいのか、これを考えた上での【お通夜はしない】という選択であれば、それはご家族の意向なので全く問題はありません。
よく話し合った上で悔いのないように決めてくださいね、なにしろ故人のお葬式は『一回だけ』なのですから。
今後は『一日葬』が主流になる理由
まずは【お通夜】の意味から説明します。
お通夜の本来の意味は『家族みんなが故人のそばに寄り添って、夜を徹して見守ること』です。
家族がちゃんと夜を徹して故人に寄り添っていれば通夜の本来の目的を果たしているので、お坊さんに来てもらったり、誰かに参列してもらうような《お通夜の式》は必要というわけではないのです。
それでも多くの人がお通夜の式をしているのは、家族や親戚以外にも故人と最後のお別れをしたい人達がいるからです。
故人の友人、あるいは職場関係の人など、故人とお付き合いのあった人達だって最後のお別れをしたいと思うでしょう。
しかし、そのような人達の中には、最後のお別れをしたくても昼間に行われるお葬式には参列できない人も多いんですよね。
そのため、お通夜の式を夜(夕方)に行うことで【お別れの場】を設け、家族や親戚以外の人達に最後のお別れをしてもらうのです。
ですから、どの範囲の人達までお葬式の案内をするかなど、さまざまな状況を考えた結果『お通夜をしない』という選択もあります。
ただし、『お葬式』の方は必要なので、ちゃんと執り行ってください。
なぜなら、お葬式は『故人に引導を渡す儀式』であり、お通夜よりもずっと重要なものだからです。
故人に引導を渡して戒名を授けることによって、いろんな仏様が故人を守り導いてくれるようになりますので、とにかく【故人に引導を渡すこと】がメチャクチャ大事なのです。
いずれこのことが多くの人に認知されるでしょうから、今後はメリットがたくさんある『一日葬』が主流になると考えられます。
【関連記事】:お葬式をする意味とは何?お葬式でお坊さんがしていることを具体的に解説!
『一日葬』のメリット
一日葬を選ぶ人は増え続けています。
なぜなら、一日葬には、
- 体力的な負担を軽減できる
- 費用面の負担を軽減できる
- 精神的な負担を軽減できる
- 時間的な負担を軽減できる
といったメリットがあるからです。
しかし、メリットだけに注目していると、意外な落とし穴に気が付かず、後悔をする事態にもなりかねません。
安易に『一日葬』を選ぶのではなく、メリットとデメリットの両方をしっかりと理解してから判断をしましょう。
では、まずメリットから紹介します。
身体的な負担を軽減できる
お葬式を執り行うと、喪主はとても体力を消耗するので大変です。
深い悲しみは大きなストレスとなりますので、大切な家族が他界した時点ですでに精神的にも身体的にもかなりの負担がかかっています。
お葬式にあたり、喪主やその家族がすべきことは、
- 葬儀社との打ち合わせ
- 司会者との打ち合わせ
- 生花の発注と名札の順番決め
- 返礼品業者との打ち合わせ
- 料理業者との打ち合わせ
- お寺との打ち合わせ
- 親戚をはじめ、友人や仕事関係など故人の知人への通知
- 故人を納棺する
- 先に訪れて来た弔問客の対応
などがあり、限られた時間の中でこれらを行わなければなりません。
また、お葬式を自宅で執り行う場合は、
- 家の中を片付ける
- 弔問来客用の駐車スペースを確保する
- ご近所へお手伝いのお願いをする(最近はコレをあまりしなくなりました)
ということもするのでさらに大変です。
また、お葬式までの日数が長くなってしまうと、その間も交代しながら家族の誰かが夜を通して故人のそばにいなくてはなりません。
過去に喪主をつとめた経験のある人は、お通夜とお葬式の2日間がどれだけ大変だったかをよくご存じのはず。
お通夜を省略することで体を休める時間がとれますから、喪主とその家族の身体的な負担が大幅に軽減されることは間違いありません。
また、親族など故人と近い関係にある参列者にとっても、1日だけの参列となるので身体的な負担を軽減できるのです。
このように、『一日葬』は身体的な負担を軽減できることが大きなメリットです。
費用面の負担を軽減できる
お葬式を執り行うには、それ相応の大きな費用が必要です。
もちろんお葬式の規模によって費用は全く違いますが、少なくとも50万円以上、場合によっては数百万円単位の大きな出費となります。
しかし、お通夜を省略することによって、
- お通夜後の料理と飲み物の費用
- 返礼品の費用
- お坊さんに渡すお布施
- 式場の使用料金
などが削減できます。
ほとんどの人が『費用の削減』を理由にお通夜を省略していますので、ここは、一つずつ解説していこうと思います。
お通夜後の料理と飲み物の費用
まず、一日葬にすることで参列者に振る舞う【料理と飲み物】を一日分減らすことができます。
一般的に料理と飲み物は不足することがないように多めに用意するため、たくさん余ってしまうこともあり、その分の料理代金は無駄な支出になってしまいます。
こういった視点から見ても、料理と飲み物を一日分減らせることのメリットはとても大きく、これだけでも十数万円程度は出費を抑えられるでしょう。
返礼品の費用
一日葬は返礼品の費用を抑えられることも大きなメリットです。
返礼品は一人分がだいたい1,500円〜3,000円くらいだと思いますので、参列者の数によっては大きな出費となってしまいます。
弔問客の多くはお通夜に参列しますが、そのお通夜をしないわけですから、用意すべき返礼品の数も抑えられます。
お坊さんに渡すお布施
お坊さんに渡すお布施は、お通夜の読経の分だけ少なくてすむ可能性があります。
ただ、お寺によっては【お通夜があっても無くても、納めてもらうお布施の金額は同じ】というところもあるので、事前にお寺へ確認しておくことをオススメします。
ちなみに僕がいる寺の場合、お通夜をしないのであれば少しだけお布施の金額を下げて納めてもらってます。
式場の使用料金
従来のやり方であれば、式場の使用料金は2日間分が必要ですが、お通夜を省略することにより1日分の式場の使用料金だけですみます。
ただし、お通夜を省略したとしても、お葬式の開始時間が早い場合などは前日からの準備の都合で2日間分の料金が必要となる場合があるのでご注意ください。
また、お通夜とお葬式の両方を行う場合は、遠方から来る親戚の宿泊費などを喪主側が負担するケースも多いです。
しかし、一日葬なら、開式時間によっては宿泊する必要がなくなり、それだけ喪主の出費も減らせます。
さらに、ちょっと細かい話ですが、駐車場誘導員の1日分の費用も削減できるんですよね。
このように、お通夜をしないことによって式場に関する費用が削減できます。
精神的な負担を軽減できる
お葬式は日中に行いますので、参列できる人は限られてきます。
そのため、お通夜をしない場合、多くの人は【身内を含めた少人数】だけで執り行っています。
そうすると、気の知れた人たちだけでお葬式ができるため、精神的な負担が少なくてすみます。
もしも少人数の参列者の中で【気を遣う人】がいたとしても、それも1日だけですみます。
このように、【1日だけ】というところで、精神的な負担もずいぶんと軽減できるのではないでしょうか。
時間的な負担を軽減できる
一日葬ということは、スケジュールは1日分だけを考えればいいですよね。
そのおかげで、身体的、精神的、経済的な負担以外にも『時間的な負担』を軽減できます。
お通夜を省略することで1日分の時間を削減できるので、その分だけあなた自身や家族の時間に充てることができます。
お坊さんの僕が言ってはいけないかもしれませんが、人生の大切な時間を有意義に使うためにも、重要なお葬式の方だけを執り行うという選択でもよいと思います。
『一日葬』のデメリット
『一日葬』はメリットがたくさんありますので、間違いなく今後の主流となるでしょう。
しかし、一日葬にもデメリットがありますので注意が必要です。
親戚からのクレーム
『一日葬』というのは、まだ最近出始めたお葬式のカタチです。
親戚の中には従来のやり方を重要視する人も多いので、場合によってはクレームが来るかもしれません。
そのような親戚の人には、お通夜はしないことを事前にしっかり説明をしておくとよいでしょう。
参列したかった人からのクレーム
もしもお通夜をしないとなると、故人の知人や職場関係の人たちは日中のお葬式に参列することができず、最後のお別れの機会を失うことになります。
そのことに対して、口には出しませんが不満を持つ人がいることを覚えておいてください。
僕がいる寺の信者さんにも、
と不満を漏らしていた人がいましたよ。
お通夜をしないなら、後々のために【納得のいく理由】をちゃんと説明できるようにしておいた方がいいです。
また、お葬式に参列できなかった人は、後日に喪主の家まで訪問してお線香をあげに行くケースが多いので、遺族はその都度対応をしなくてはいけません。
お葬式が終わっても喪主がすべきことは他にもたくさんありますので、訪れた人みんなを個別に対応するのは意外と大変ですよ。
お寺によっては嫌な顔、または拒否をされる
『一日葬』は、僕たちお坊さんの間でもずいぶんと認知されてきました。
しかし、まだまだ『従来のやり方』を重要視するお寺は多いんです。
そのようなお寺に「お通夜をするつもりはありません。」なんて言ったら、おそらく【嫌な顔】をされるでしょう。
お坊さんとしては、今まで当たり前のようにお勤めしていたものをいきなり省略するわけですから、何となく故人の供養まで省略しているような気分になるんですよね。
それに、ただでさえ、ここ数十年の間でお葬式のやり方がかなり簡略化されているんです。
そこへ、さらに【お通夜】まで無くなってしまうんですから、従来のやり方を重んじる考えの住職さんであれば、おそらくその胸中は穏やかではありません。
お通夜を省略したい旨を、先ほどと同様に【納得のいく理由】で住職さんに説明をしてあげてください。
お坊さんの話(法話)は聞けない
僕たちお坊さんは、お通夜の法要のときにいろんな話(法話)をします。
人が亡くなるとはどういうことか、故人に授けた戒名にはどのような意味があるのか、などの話をします。
しかし、それはお通夜のように【法要後に話をする時間が十分に確保されている】ことが条件となりますから、基本的にお葬式の後に話はしません。
なぜなら、『火葬場への到着時間』が厳しく決められており、話をする時間がほとんど無いからです。
お通夜をせずにお葬式だけを執り行うことで、お坊さんの話を聞けない可能性が高いことをあらかじめご了承ください。
一日葬のよくある質問
一日葬は最近出てきたお葬式の形態なので、信者さんからも一日葬に関するいろんな質問をされます。
しかし、質問の内容はだいたい決まっているので紹介します。
一日葬の費用の平均はどのくらい?
一般的なお葬式の費用は100万円~200万円くらいかかりますが、一日葬なら『お通夜』がない分だけ費用が減ります。
一日葬の費用は、お坊さんへ渡す『お布施』も含めると、平均で【80万円~150万円】といったところでしょう。
よく『葬儀費用が○万8千円〜』みたいに驚くほど格安料金のお葬式プランを打ち出している葬儀社があります。
しかし、格安料金のお葬式というのは【本当に必要最低限】あるいは【必要なものが一部不足している】という内容です。
一般的な見栄えのお葬式をしようと思ったら結局は100万円程度かかりますのでご注意ください。
一日葬のお布施の相場はいくら?
お葬式では一般的に【お坊さん】に来てもらいますよね。
お坊さんに来てもらったら、当然ながら『お布施』を渡さなくてはいけません。
お布施というのは、宗派や地域、あるいは授かる戒名(法名)によって大きく違いますので、平均とか相場というのはあまりアテになりません。
それでも、あえて相場を言うと、
- 戒名を付けない:10万円~20万円
- 戒名を付ける:30万円~100万円
くらいでしょう。
ただし、すでにお付き合いをしているお寺がある場合は、必ずそのお寺に【お布施の金額】を確認してください。
一日葬でかかる時間はどのくらい?
一日葬は、『一日葬』という名前ではありますが、本当に丸一日かけて執り行うものではないです。
一日葬は、喪主が式場入りしてから火葬場を出て解散するまでに、だいたい【5時間】程度かかります。
まず、多くの場合、喪主は《開式の1時間前》には葬儀式場に入ります。
そして、お葬式の開始から出棺まではだいたい1時間15分。
一般的に、葬儀式場から火葬場までの移動時間が30分~45分。
最近の火葬炉は性能が良くなっているので、火葬時間から収骨までが1時間40分。
最後に、火葬場を出て親戚などに参列の御礼などを言って解散するまでに20分。
これで、おおむね5時間くらいとなります。
ただし、地域によっては、火葬が終わったらその日のうちにお墓へ納骨するケースもあります。
その際は火葬場から墓地までの移動や納骨供養の時間などを合わせると、さらに1時間30分くらい追加となります。
まとめ: 一日葬のメリットはたくさんありますが、よく考えてから決めましょう。
故人を送り出すには、お通夜をせずに【お葬式のみ】でも問題はありません。
簡略化するのは悪いことではないと思いますが、中には「お通夜を省略せず、できるだけ多くの人に故人とのお別れの時間を過ごしてもらいたい」と考える人がたくさんいるのも事実です。
もしも、故人が生前に「お通夜はしなくてもいい」と希望していれば、その遺志を尊重することも大事です。
しかし、特に理由もなく、ただ【楽だから】とか【安いから】というだけでお通夜を省略しないでくださいね。
どのようにお葬式を執り行うかを決めるのは喪主や遺族の考え方次第、つまり自由です。
自由だからこそ、後悔のないように、故人を送り出すために何が一番良い方法なのかをよく考えた上で決めましょう。