お坊さん歴20年以上の未熟僧と申します。
- お寺の墓地にお墓を建てたい。
- お寺の檀家とは何なの?
- 檀家になるとどんなメリットやデメリットがあるの?
お墓を建てる場所と聞いて【お寺の墓地】を連想する人は多いです。
お寺の墓地にお墓を建てるということは、そのお寺の『檀家』になるという絶対条件があります。
しかし、檀家になるのはとても大変なことです。
檀家というものをよく知らずにお寺の墓地にお墓を建ててしまい、それで後悔する人が後を絶ちません。
この記事では、お坊さんの僕が【檀家になるとはどういうことなのか】について書いています。
安易にお寺の墓地にお墓を建てて後悔しないように、ぜひ最後まで読んでみてください。
檀家とは『お寺を積極的に支える立場』にある家のこと
お寺の墓地にたくさん建てられているお墓。
それらのお墓は、どんな人でも使用できるわけではありません。
お寺の墓地にお墓を建てるには、そのお寺の『檀家』となる必要があり、これはどこのお寺でも絶対条件です。
お寺の『檀家』とは、簡単に言うとお寺を積極的に支える立場にある家のことを意味します。
つまり、
- そのお寺が属する宗派の教えを信仰する
- お葬式のときには必ずそのお寺のお坊さんがお勤めをする
- 法要などの供養をしっかりと行う
- お寺の行事には積極的に申し込みや参加をする
- 寺から寄付などの要請があればちゃんと納める
- 基本的に檀家以外の人よりもお布施を多く納める
ということです。
あなたの家のお墓を守るお寺を、あなたがしっかりと支えなきゃいけないので『檀家』になるというのは大変なことなんです。
ですから、もしもあなたが新しくお墓を建てようと考えているのなら、【お寺の墓地】にお墓を建てるのはおすすめしません。
お坊さんである僕がこんなことを言ってはいけないことは重々承知しています。
しかし、『檀家』になると、どう考えてもメリットが少なく、反対に多くのデメリットを背負うことになるんですよね。
では、なぜ多くの人はお寺にお墓があるのでしょう?みんなそれなりの覚悟をもって檀家になっているのでしょうか?
残念ながら、そうではありません。
多くの人は、単純に昔からそのお寺に自分の家のお墓があるから今でも檀家になっているというだけです。
あなたは、江戸時代に幕府が定めた『寺請制度』というのをご存じでしょうか?
これは、キリスト教を禁止するために、すべての人々をどこかの寺院の『檀家』にさせて、家ごとの戸籍管理を寺院に担わせるという制度です。
これによって、人々は強制的に寺院の『檀家』にさせられたのですが、それが今日まで受け継がれてきているわけです。
つまり、多くの人は、自分が望んでそのお寺の『檀家』になっているわけではありません。
ずっと長い間そのお寺にお墓があるので、今さら他の所へお墓を移すことができなくなっているだけなんですよね。
また、以前は『霊園』の数がとても少なく、お墓を建てる場所がお寺の墓地くらいしかありませんでした。
そのため、ほとんどの人は【お墓を建てる場所】は必要ですが、べつに『檀家』になりたいわけではなかったのです。
でも、今ではたくさんの霊園ができており、いろんな形の墓所がありますので、お寺の墓地に縛られる必要はありません。
悪いことは言いません、『檀家』になると大変ですから、お寺ではない所にお墓を建てた方がいいですよ。
もしも、現在すでに『お寺にお墓がある』という場合は【離檀(りだん)=檀家をやめること】も検討しましょう。
ただし、離檀をするときは『墓じまい』が必要なので、事前に《遺骨の移転先》を決めておいてください。
※離檀の詳細についてはこちらの記事を読んでみてください。
檀家になることのデメリット
ここからは、檀家になることのデメリットについて書いていきます。
普通であればメリットから説明しますが、あえてデメリットから紹介します。
それくらい『檀家』になることにはデメリットがあるからです。
とはいえ、細かい部分まで全部を紹介しきれないので、今回は主なところだけをご紹介します。
永代使用料が高い
お墓を建てるためには、そのための土地(=墓地)が必要です。
ですから、まずは『お寺から土地(=墓地)を借りる』という手続きから始めなければなりません。
そして、もちろん土地を無料では借りられません。
土地を借りるには、『永代使用料』を寺に納める必要があります。
これを納めることによって、あなたの家の誰かがお墓を継承し続けている限り、ずっとその土地を使うことが可能になります。
そして、この永代使用料がお寺の場合はとても高いのです。
試しにインターネットなどを使い、お寺と霊園などの永代使用料を比較してみてください。
きっと驚くほどの違いがあることでしょう。
やはり、檀家となる人にはお寺を支えてもらう必要があるので、他よりも高くなってしまうんです。
そして、念のためにもう1度言いますが、お墓を建てる土地は、お寺から【借りる】ということです。
ですから、土地の売却はもちろん、勝手に他の人へ貸すこともできません。
また、もしもお墓を継承する人がいなくなったら、建っている墓石を全部撤去して、墓地を更地に戻した上でお寺に返還しなくてはいけません。
墓地はあなたの所有物にはならないことを十分に承知しておいてください。
お寺の年間行事への申し込みを強く要請される
お寺にはいろんな行事があります。
例えば、
- 節分
- 涅槃会(ねはんえ)
- 彼岸会(ひがんえ)
- 花まつり
- お盆
- 除夜の鐘
などです。
このようなお寺の行事があると、檀家は行事への申し込みや参加を強く要請されます。
ですから、檀家は積極的に行事への申し込みや参加をしなければいけないんですよね。
お盆は先祖供養をする行事なので、供養の申し込みをすることに抵抗は少ないかと思いますが、それ以外の行事には「これって申し込まなきゃダメなの?」と思うことでしょう。
しかも、行事の多い寺だと、檀家にとってはまぁまぁの出費にもなりますし、毎年のことなのでけっこう面倒だったりします。
しかし、それは檀家としての役目なんですよね。
檀家である以上は【お寺を支えること】を優先的に考えなければならず、この『お寺との付き合い』がとても面倒なので、最近では霊園が大人気です。
法事や葬儀をしなきゃいけない
お寺の檀家になるということは、そのお寺の所属する宗派の信者になるわけです。
日頃から宗派の教えを信仰し、そして教えに則り【供養をしていく姿勢】が必要になります。
ですから、家族に不幸があれば必ずお葬式を執り行うことが義務づけられ、『ゼロ葬』や『生前葬』なんて言語道断なのです。
もちろん、お葬式だけではなく、その後の法事もちゃんと行わなくてはいけません。
この『檀家になることは〇〇宗の信者となること』という重要な認識が、多くの人にはあまりないんです。
もしも、「お墓さえあれば場所にこだわりはない。」という考えなら、余計な制限がない【お寺以外の所】にお墓を建てましょう。
【寄付】を要求される
お寺にある物って、1つあたりの値段がとにかく高いんですよね。
相場を知らない人が値札を見たら、「はっ?何でこんなに高いの!?」って絶対に思います。
もちろん、小さなものであればお寺の蓄えで購入することができます。
しかし、もっと大きなもの、例えば何かの【お堂】を建てる場合なんかは『寄付』が必要です。
そして、寄付を集める対象となるのは『檀家』のみなさんです。
計画しているモノの規模にもよりますが、寄付というのは一般的に数万円~数十万円程度は要請されます。
また、『小さなお寺』の場合は寄付を集める頻度が上がります。
『小さなお寺』は檀家の数が少なく、その分だけ収入もありませんので、必然的に寺の蓄えも少ないんです。
たまに「あそこのお寺は大きいから、きっとたくさん寄付を集めていろんなものを建ててるんだよ。」っていう人がいますが、それは違います。
大きなお寺は檀家の数が多いので、日頃から十分な収入が確保できており、わざわざ寄付を集めなくても寺の蓄えだけで間に合うんですよ。
しかし、そんな大きなお寺っていうのはあまりないですからね。
基本的に『檀家』には寄付がつきものとして考えてください。
変なお坊さんが住職になってしまうと大変
あなたの周りには「あの人ちょっとオカシイんじゃないの?」という人はいませんか?
必ず何人かは思い当たる人がいるはずですよ。
そして、そういう【変な人】はお坊さんにもいます、というか、お坊さんには『変な人』が多いです。
ですから、そういう【変なお坊さん】が住職になってしまったら、そのお寺の檀家さん達はとても苦労をすることになります。
僕の所属する宗派の僧侶に、刑事事件をおこして全国放送までされてしまった人がいます。
僕はその人を知っていましたが、彼は昔から変わった言動が多く、集団行動も苦手な人でした。
もちろん檀家さんとの衝突もあるし、葬儀社とのモメ事も多かったです。
そして、とうとう彼は刑事事件を起こしました。
僕は彼のお寺の檀家さんたちが気の毒でなりませんでした。
たった1人のオカシイお坊さんのせいで、ご先祖様たちが守り続けてきた寺の名前を汚されてしまったのです。
もちろん、そのようなお坊さんをお寺から追放する方法はありますが、なかなか簡単には進まないのが現実です。
基本的にお寺に関するあらゆる権限は、そのお寺のお坊さんが握っています。
ですから、もしも【オカシイお坊さん】が住職に就任してしまったら、そのとばっちりをすべて檀家が受けるのです。
しかも、そういうお寺は近所のウワサになっています。
あなただって、「あぁ、あのオカシイ坊主のいるお寺にお墓があるんだ~」なんて言われたくないですよね?
今後は廃寺が多くなる
日本全国にはお寺の数が約75,000もあります。
ちょっと前までは、「コンビニよりお寺の数の方が多い」なんて言われているくらいでした。
しかし、それだけたくさんのお寺があるにもかかわらず、人口は猛烈なスピードで減少しています。
そして、人口が減っているのに対し、仏事にほとんど興味のない【仏はホットケ】的な人の数は急増しています。
ですから、お寺に興味がなくなり【墓じまい】をする人が増え、これによりお寺を維持できず、やがて『廃寺』となるケースも増えてきました。
廃寺となっても近所のお寺のお坊さんが代わりに面倒を見てくれるケースもありますが、必ずそうなるという保証はありません。
ですから、せっかくあなたがお墓を建てても、数年後にはそのお寺が潰れてしまうかもしれないのです。
というか、多くのお寺ではその確率が高くなっているんです。
だったら、お寺の墓地なんかにお墓を建てない方が賢明ではないでしょうか?
『入檀料』や『離檀料』を要求されることも多い
新規に檀家になることを『入檀』といいます。
今ではだいぶ少なくなってきましたが、この入檀の際に永代使用料とは別に『入檀料』を要求するお寺があります。
入檀料というのは、墓地の使用者が「これから末永くよろしくお願いします。」という意味で納めるわけです。
つまり、使用者側の【気持ち】で納めるものです。
入檀料はお寺によって違いますが、数万円~数十万円程度は要求されることでしょう。
反対に、檀家ではなくなることを『離檀』といいます。
そして、なぜか離檀のときにも『離檀料』などといってお金を要求されてしまうことがあります。
離檀料というのは、言ってみれば「今までお世話になり、どうもありがとうございました。」という使用者の【御礼】の意味で納めるものです。
それを、またしてもお寺の方から「最後に御礼をしなさいよ!」と言わんばかりに要求するんです。
どうですか?悪いことは言いませんから、お寺の墓地にお墓を建てない方がいいですよ。
お坊さんの僕が言っているんですから間違いありません。
檀家になることのメリット
お寺の檀家になることはデメリットばかりではありません。
ほんの少しだけならメリットもありますので、一応は紹介しておきます。
広い墓地が使える
お寺の墓地は、1区画あたりの面積が霊園などに比べて広いです。
ですから、広い墓地にお墓を建てたい人にとってはメリットになります。
ただし、墓地が広いということは、お墓を建てるときにそれだけ多くの石材が必要になるので、数百万円程度の費用が必要です。
また、墓地が広いことによって、雑草が生える面積や掃除をする範囲も広くなりますのでお墓を建てたあとの管理がとても大変なのです。
それらを承知の上で、それでも『面積の広い墓地』を希望するのであれば、寺の墓地を選ぶとよいでしょう。
格式の高いお寺にお墓があると、それがステータスになる
あなたが住んでいる地域に、地元の人ならだいたい知っているような『大きくて立派なお寺』はありませんか?
大きなお寺というのは【由緒ある格式の高いお寺】である可能性が高いです。
ですから、格式のある大きなお寺にお墓を持つことがステータスになると考えている人にとってはメリットとなります。
しかし、それはそう思っている人だけの完全なる『自己満足』なんですけどね。
お寺の規模に関係なく仏様の供養の方法は同じですから、当然ながら供養の質も同じです。
ただ、ブランド品を好きな人がいるように、有名なお寺にお墓を持ちたいという人も一定数いるので、そのような人にとっては有名で大きなお寺であれば『お寺の墓地にお墓を建てること』に意味を感じるかもしれません。
まとめ
お寺の墓地にお墓を建てる予定なら、もう1度よく考えてください。
お寺の墓地にお墓を建てた家は【檀家】となり、それは『今後ずっとお寺を積極的に支える立場』になることを意味します。
そして、檀家となった家のほとんどは【檀家であることの多くのデメリット】に悩まされています。
僕はお坊さんなので、たくさんの人が『檀家の苦労』をしているのを見てきました。
本当に申し訳なく大変心苦しいのですが、現実問題として檀家様の協力なしではお寺を維持できないのです。
もしもお寺の墓地にお墓を建てるなら【檀家になるデメリット】を受け入れ、それが後代にも受け継がれることを覚悟しなくてはいけません。
それでもよろしければ、お寺は全力であなたの家のご先祖様を守り、末永く供養をさせていただきます。
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