【除夜の鐘】なぜ鐘をつくの?鐘ではなく他の仏具ではダメなの?梵鐘をつくのには理由がある!

当サイトでは記事内に広告を含む場合があります。

お坊さん歴20年以上の未熟僧(みじゅくそう)と申します。

こんな人に向けて書いています
  • 『除夜の鐘』って何なの?
  • どうして他の仏具(鳴り物)ではなく
  • 【鐘】でないとダメなの?

大晦日の夜に遠くから聞こえてくる鐘の音を聞くと「あ~、今年も間もなく終わりだな。」と思いますよね。

お寺には、

  • 木魚(もくぎょ)
  • 太鼓(たいこ)
  • 磬子(けいす)
  • 銅鑼(どら)
  • 妙鉢(みょうばち)

など、いろいろと【鳴り物】がありますが、除夜の鐘ではわざわざみんな列に並んでまで大きな【鐘】だけを鳴らしています。

これってなぜなのでしょうね?

じつは、除夜の鐘では『大きな鐘』をつくことに重要な意味があるのです。

この記事では、

  • 除夜の鐘の本当の意味
  • わざわざ【鐘】をついている理由

について他の記事とは違う視点から書いています。

除夜の鐘でわざわざ【鐘】をついている理由を知れば、一打に込める気持ちが全く変わりますので最後までお読みください。

見たいところに飛べる目次

除夜の鐘とは何か?

まずは『除夜の鐘』の説明をします。

仏教を広めたお釈迦(しゃか)様がおっしゃるには、私たち人間には108個の煩悩(ぼんのう)があるそうです。

煩悩とは、『あらゆる苦しみの根源となるもの』のことをいい、煩悩がある限り苦しみから逃れることはできません。

そして、仏教の基本的な教えは、【煩悩】を消し去ることができれば、絶対的な心の平穏を獲得して悟りが開けるというものです。

じつは、除夜の鐘をつくのは、私たちの煩悩を少しずつ消していくためのものなんです。

除夜の鐘には、鐘を108回つくことで私たちの中にある煩悩を1つずつ消していくという意味があります。

一般的には、大晦日の夜から鐘をつき始めて、午前0時を過ぎたら、つまり新年を迎えたら108回目をつきます。

除夜の鐘は、一年間の煩悩をキレイに消し去って、心身ともに清らかにしてから新年を迎えるための大切な行事なのです。

・・・と、まぁコレくらいの説明なら他のサイトでも書いていますよね。

この記事では、もっと詳しく説明をしますよ。

先ほども言いましたが、私たちの中には108個の煩悩があるといわれています。

煩悩があるというのは、悟りから遠ざかっている状態、つまり『物事の真実がわからない(見えていない)状態』である、ということです。

真実がわからない(見えていない)状態だと、正しい判断ができずに迷い続けてしまいます。

それはまるで、真っ暗な闇夜の中を何の明かりもなく進むようなものなので、仏教ではこれを【無明(むみょう)】といいます。

除夜の鐘の【除夜】は、字のごとく『夜』を『除く』と書きます。

つまり、除夜の鐘は【無明】を取り除くことが目的なんですよね。

言い方を変えると、『鐘をつくことによって、私たちの闇(=無明)を少しずつ取りく』ということです。

だから、『除夜の鐘』といいます。

私たち人間は欲望が絶えない生きもので、1つの欲望を満たすと、その瞬間からまた新たな欲望が湧いて出てきます。

私たちは、たくさんの欲望を満たしては新たに生み出す、これを毎日のように続けてしまいます。

そんな『欲望の繰り返し』を、せめて新年を迎えるときくらいはヤメましょう、心身ともに清らかな《無欲な状態》で年を越しましょう、ということで大晦日の夜に【除夜の鐘】をつくのです。

除夜の鐘は、なぜ【鐘】をつくのか

除夜の鐘の意味はおわかりいただけたかと思います。

では、なぜ他の鳴り物ではなく【鐘】をつくのでしょうか?

梵鐘(ぼんしょう)の意味と役目

この記事ではこれまで、お寺にある大きな鐘を『鐘』と称してきましたが、正式な名称がちゃんとあります。

あの大きな鐘の正式名称は、『梵鐘(ぼんしょう)』といいます。

梵鐘は本来【法要が始まることを予め知らせるため】につくものです。

それが、やがて時報代わりに毎日朝夕の定刻に決まった回数をついたり、お葬式の出棺で故人を送り出すときにつくようにもなりました。

また、梵鐘を自由についてもよいお寺では、お墓参りなどで参拝に来た人が、お参りの前に1回「ゴ〜ン♪」とついていったりもします。

このように、多くのお寺には梵鐘がありますが、梵鐘にはどのような意味があるのでしょう?

梵鐘の《梵》という字には、【穢れがなく澄みきった清らかなもの】という意味があります。

つまり、梵鐘とは『穢れがなく澄みきった清らかな音を出す鐘』なのです。

『穢れがなく澄みきった清らかなもの』とは、要するに【仏様そのもの】のことですから、梵鐘から出る音は、【仏様の教え】あるいは【仏様の声】と同じなんです。

もしあなたが梵鐘をつくと、あなた自身はもちろんですが、遠くにいる人たちも鐘の音を聞くことができます。

それは『仏様のありがたい教えや声が、遠くにいる人たちに届けられる』ということです。

梵鐘の音というカタチで、仏様の教えや声を聞くことにより、それを聞いた人たちは心身ともに清められていきます。

ですから、梵鐘をつくことは、鐘の音が聞こえる人たちみんなに仏様のご利益を届けること、つまり【布施】にもなるわけです。

このように、梵鐘をつく意味は、

  • 自分を心身ともに清める
  • 梵鐘のご利益をたくさんの人たちにも施す

ということなんですね。

できれば、一日に何回も鐘をついて多くの人たちに布施をしたいところです。

しかし、ウチの寺もそうなんですが、行事のない普段の日は梵鐘がつけないというお寺も多いのです。

理由は簡単、『梵鐘の大きな音がご近所の迷惑になるから』です。

布施の行為が『ありがた迷惑』になるわけですね。

お寺は近隣の人たちとの連携があってこそ成り立つものですから、ここは譲歩するしかありません。

でも、堂々と梵鐘をつくことができるのが大晦日の除夜の鐘です。

新年が迫る頃には、梵鐘から出る大音量の仏様の教えと声が夜空に響き渡ります。

えっ?除夜の鐘を昼間に行う?

以前、あるテレビ番組で『除夜の鐘を昼間に行うお寺』みたいなものを観たことがあります。

なぜ、昼間に行うかといえば、やはり夜に大音量で響く【鐘の音】でご近所トラブルになったからだそうです。

そのお寺のご住職さんはすごく悩まれたことでしょうね。きっと苦肉の策で『昼間に行う除夜の鐘』に踏み切ったにちがいありません。

僕は、そのお寺のご住職さんの決断は正しいと思います。

先ほど、【除夜】の意味を《無明を取り除くこと》と説明をしました。

無明を取り除くために鐘をつくのなら、べつにそれが夜でなくてもいいんですよね。

なぜなら、《無明》は昼も夜も関係なく、いつでも取り除いてよいものだからです。

しかし、ほとんどの人が、除夜の鐘『除日(大晦日)の夜につく鐘』だと認識しているので、夜に行うものと考えるのが普通でしょう。

でも、じつは、現在のように多くのお寺で【夜】に鐘をつくようになったのは、どうやら比較的最近(昭和初期?)のことだという話もありますよ。

ですから、除夜の鐘に対する考え方によっては、大晦日の昼間に行うこともOKなのではないかと思います。

多くの人は、年末年始は仕事が休みだと思いますが、仕事をしている人だってもちろんいるわけです。

年末年始も休まず仕事をしている人たちのおかげで、多くの人は休みを取ることができます。

そのような人たちにとっては、除夜の鐘の音が『睡眠を妨げる騒音』となってしまいます。

昔からの伝統を守り続けることは大切なことですが、時代に合わないものは少しずつ変化させていかなければなりません。

ウチのお寺の周りにも住宅がたくさんありますので、もしもトラブルになるようでしたら『昼間に行う除夜の鐘』を本格的に考えようと思います。

【関連記事】:つらい!休みたい!あなたが年末年始も休み無しで仕事をする理由。

鐘以外の【他の仏具】ではダメなのです!梵鐘をつくのには理由がある!

冒頭でも言いましたが、お寺の仏具にはいろいろな【鳴り物】があります。

他の鳴り物にもそれぞれ【仏様のご利益】にまつわる意味があります。

そして、ご近所トラブルになるほどではないですが、それなりに大きな音の出る仏具もあります。

ではなぜ、除夜の鐘に使われる鳴り物は梵鐘でなければならないのでしょうか?

総合的に見ても、やはり、梵鐘に勝る鳴り物がないからなんですよねぇ。

他の鳴り物は、法要でお坊さんが使用する物だったり、または宗派によっては使用しない物だったり、あるいは使用するにも何らかの制限があるのです。

一方で、梵鐘は宗派を越えて多くのお寺にありますし、しかも誰もが使ってよい鳴り物です。

そして、鳴り物の中でも最も遠くまで音が聞こえるのは梵鐘です。

日本の仏教のほとんどは『大乗仏教』と呼ばれ、一部の人だけではなく、みんなが悟りを開くことを理想とする考え方です。

だから、できるだけ多くの人が仏様の教えと声を聞いた方がいいわけで、みんなが心身を清めて、良い新年を迎えられるようにするべきなのです。

そのため、除夜の鐘では、他の仏具ではなく【鐘(=梵鐘)】をつくのです。

鐘の音から【ご恩】を聞く

僕の知り合いのお坊さんが、除夜の鐘が始まる前に信者さん達に向けてこんなことを話していました。

鐘をつく前には必ず合掌をしてくださいね。

手を合わせて、今年も無事にこうやって鐘をつきに来られたということに感謝をしましょう。

今、皆様がそこにいられるのは、今年一年いろんな人たちに支えられてきたからです。

鐘をついたら【ゴォ〜ン】という大きな音が出ます。

その音をしっかりと聞いてください。

その大きな音は、今年あなたがいろんな人たちから受けた、ありがたい【ご恩=ゴォ〜ン】そのものなんですから。

と、まぁ最後は単なるダジャレでしたけどね。

後で知ったのですが、【ご恩=ゴォ〜ン】は先輩方の世代のお坊さんが、除夜の鐘のときによく使うダジャレだったようです。

まとめ : 鐘(梵鐘)をついてこそ【除夜の鐘】です

除夜の鐘は、日本中のお寺で行われます。

僕がいる寺で鐘をついているときにも、遠くの別のお寺からゴォ〜ンと鐘の音が聞こえてきます。

きっとお互いに鐘の音が聞こえているでしょう。

除夜の鐘はとても大きな音が出ますが、その音を聞いたら不思議と心が安らいで落ち着きませんか?

それはたぶん、鐘の音が《仏様の声》だからでしょう。

僕は、一年の最後はできるだけ多くの方々と一緒に心安らぐ仏様の声を聞きたいと思います、そして、それを可能にするのは梵鐘だけです。

やはり、梵鐘をついてこそ【除夜の鐘】なのです。

※こちらの記事も読んでみてください。

⇒【関連記事】:初詣で菩提寺とお墓を先にお参りしてほしい理由。お参りの優先順位とは?

見たいところに飛べる目次