お葬式には、故人を偲び最後のお別れをするために、親戚、友人、仕事の関係者など、故人にゆかりのある人たちが集まります。
お葬式が終わると、喪主から参列者へ御礼の意味を込めて料理が振る舞われます。
この、お葬式後の食事のことを一般的には、
『精進落とし(しょうじんおとし)』
といいます。
そして、お葬式に関する質問の中でとても多いのが、この『精進落とし』をいつすればいいのかというものです。
先日も、信者さんとお葬式の打ち合わせをしている時に、
「お葬式後の食事ですが、
火葬場で行うものなのか、
それとも、
火葬が終わり、式場に戻ってきてから行うものなのか、
どちらが正しいのですか?」
と聞かれました。
あなたも同じ疑問を持っておられますか?
とりあえず、先に結論を言いますと、
どちらでも大丈夫です!
なんだかすみません、結局のところ、どちらでも問題はないんですよ。
お葬式後の食事のタイミングに関して、仏教的な決まりもありませんので。
ただ、最近の傾向としては、ほとんどの人が、
火葬場で精進落としをする
という選択をしていますし、ぼくも、
火葬場での精進落としをおすすめ
します。
お葬式を行う時にはいろいろと悩む場面が出てきます。
食事に関することもいろいろと決めなくてはいけません。
この記事では、
- 【お葬式後の食事=精進落とし】の意味
- 火葬場で精進落としをする【メリット】と【デメリット】
- 式場に戻ってから精進落としをする【メリット】と【デメリット】
をわかりやすく解説しています。
もしもの時の参考になると思いますので、ぜひ最後までお読みください。
【精進落とし】の意味
まず、お葬式後の食事とはどのようなものとして捉えるのか、また、どんな意味があるのか、これらに対するぼくの考えを書いていきます。
少しくらい笑い声があってもイイのでは?
お葬式が無事に終わると、喪主は参列者へ食事を振る舞います。
この時に、喪主は参列者全員に【お礼のお酌】をして回ります。
ここで、故人にまつわる話をみんなで語り合います。
故人を偲んで、故人のことを話題に取り上げる、これは立派な供養になるんです。
時には、喪主や家族も知らなかったような生前の故人に関する話なんかを聞けることもあります。
そうやって、みんなで語り合って【食事をしながら故人の供養】をしているんですよね。
ところで、お葬式の時の食事って、何となく【笑ってはいけない】という雰囲気がありますよね?
お葬式という悲しみの場で笑うことは【不謹慎】であると。
ん〜、それってどうですかねぇ。
ぼく個人的には、少しくらいは【笑い】があってもイイんじゃないかなと思いますけど。
たしかに、ぼくも親から「お葬式の時は笑顔を見せてはいけないよ」と教わりましたし、実際に目の前で涙を流している人がいたら、さすがに笑ってイイとは言えないです。
でも、ぼくの経験からすると、お葬式後の食事の頃になると喪主やその家族もだいぶ落ち着いていますし、べつにその場もシーンとしてるわけではないですよ。
チラホラと笑い声も出てますし、けっこうみなさんワイワイと食事をされています。
小さなお子様達が参列している時なんかは、退屈なのかその子達が楽しそうに騒ぎ出すなんてことも普通の光景ですから。
おそらく、みなさん当然ながら悲しいんですけど、食事くらいの頃になると、それなりに故人の死を受け入れ始めているんじゃないかと思います。
それで考えてみたのですが、もしかすると、逆にみんなが笑ってあげることで、故人としては安心できるのではないですかね?
故人からすると、自分の家族みんながずっと泣いて悲しんでいたら、心配であの世に行きづらいと思いませんか?
それよりも、少し笑い声があるくらいの方が、故人だって安心して旅立てると思うんですよね。
なおかつ、故人とは全然関係のない話題ではなく、故人にまつわる笑い話だとさらにイイと思うんですけどね。
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【精進落とし】とは何?
それでは次に、『精進落とし』とは何なのかを説明します。
まず、あなたは《精進料理》をご存じですか?
実際に食べたことはなくても、聞いたことくらいはありますよね?
アレって、肉や魚はもちろん、動物性の油やタレ、刺激とニオイの強い野菜、辛い調味料なんかも一切使わないんです。
ぼくが修行していた時も、この《精進料理》を食べていましたが、ホント徹底的に【動物性のもの・刺激やニオイの強い物】を抜いているんですよね。
例えば、
- 【カツオだし】の入った醤油はダメ
- 納豆は大丈夫だが、付属のタレ【カツオだし】はダメ
- みそ汁は【昆布だし】のみ、それ以外はダメ
- 七味や和唐辛子はダメ
- ネギ・ニンニク・ニラはダメ
というカンジなんですよ。
コレってかなり味や料理方法の制限がされていますよね?
かといって、「まぁなんと味気ない料理なんだ!」ってこともないんですよね、意外とコレが。
動物性や刺激物はなくても、ちゃんと美味しく食べられるのです。料理として完璧に成立しています。
ぼく達がいかに普段から体に良くない味付け(ソレが美味いんですけど)であるかが実感できますよ。
あぁ、なんだか久しぶりに食べたくなってきました。
おっと、すみません、懐かしくて話が少しそれてしまいました。
精進料理は仏の教え(生き物を殺すな、刺激を追い求めるな、など)を守りながら食事できるように考えられた料理です。
家で不幸があると、故人の冥福を祈り、供養をする意味で、その家族は49日を迎えるまでの間《精進料理》を食べ続けるのです。
そして、49日が終わると、また通常の料理に戻します。
この、
《精進料理》から《通常の料理》に戻すこと
を『精進落とし』というのです。
ここまでの文を読んで、過去にお葬式へ参列したことがある人はこんなふうに思ったかもしれません。
「いやいやいや、49日じゃなくて、お葬式後の食事の時にはもう『精進落とし』って言ってたし!」
って。
そうなんですよ、たしかに今は【お葬式後の食事=精進落とし】になっているんですよね。
そうなった理由も一応はあります。
本来であれば49日までは精進料理なんですけど、お葬式には多くの人を招いているので、【おもてなし】というところを重視したんです。
そして、料理を美味しく召し上がってもらい、満足してもらうことを優先するために《49日までの期間を前倒し》させて、何の制限もない通常の料理を振舞うようになりました。
これが慣習化して、現在の《お葬式後の料理=精進落とし》となったのです。
ですから、精進落としの料理は、参列者への【おもてなし】として、美味しく召し上がっていただき満足してもらえるような品目を選びましょう。
火葬場で食事をする
それでは、お葬式後の食事を【火葬場】で行なった場合のメリットとデメリットを紹介していきます。
先ほども書きましたが、ほとんどの人は『火葬場での精進落とし』を選択していますし、ぼくもコチラの方をおススメしています。
火葬場で食事をするメリット
火葬場では、収骨までの間、参列者は待合室で待機します。
その時間は約1時間〜1時間半くらいですかね。
多くの場合、この『収骨までの待ち時間』を精進落としの時間にあてます。
これにより、
- 収骨までの待ち時間を有効に使える
- 食事をする時間帯をお昼近くに寄せられる
- 火葬場で解散することもできるので、その場合は参列者の拘束時間を減らすことが可能
などのメリットがあります。
収骨までの待ち時間を有効に使える
お葬式に参列している人たちは、公私ともに忙しい中わざわざ時間を作って来てくれています。
そんな中、収骨までの間ただ待たせておくのは失礼にあたります。
そこで、【精進落とし】という形で料理を振る舞うことで、ただ待たせるのではなく、食事をしてもらいながら収骨までの時間をすごしてもらうことができます。
これにより、収骨までの時間をとても有効に使うことができるので、火葬場で食事をすることは時間の有効活用という点で大きなメリットになります。
食事をする時間帯をお昼近くに寄せられる
お葬式は午前中に執り行うことが一般的です。
そうすると、お葬式にかかる時間と式場からの移動時間などで、火葬場に到着するのはだいたい〔お昼〜午後2時頃〕になります。
つまり、火葬場で精進落としを振る舞うことで、普段の【昼食】に近い時間帯で参列者の方々に食事をしてもらえます。
火葬場で解散できるので、参列者の拘束時間を減らせる
収骨が終わると、喪主が参列者へ会葬のお礼を述べて解散をするという流れになります。
火葬場で精進落としを終えていれば、その場で解散することが可能となります。
遠方から来た参列者にとっては解散時間が早くなることは正直なところ【助かる】はずです。
このように、火葬場で精進落としをすることは、時間を無駄なく有効活用できる点が最大のメリットとなりますね。
火葬場で食事をするデメリット
一方で、デメリットもあります。
それは、
- 食事をしている時間にあまり余裕がない
- 部屋が少しだけ狭い
- 他の家(他の葬儀の家)の人たちが大勢いる ※隣が騒がしい、トイレが混むなど
- そもそも火葬場の雰囲気自体が苦手な人にとっては苦痛
と、こんなカンジでしょうか。
食事をしている時間にあまり余裕がない
ぼくが最大のデメリットだと思っているのは、『食事をしている時間にあまり余裕がない』ことです。
最近の火葬技術はずいぶん向上し、以前に比べると火葬時間がかなり短くなりました。
これにより、精進落としの時間も短縮せざるを得なくなり、あまりゆっくりと食事をしていられなくなりました。
とはいえ、収骨まではどんなに早くても1時間程度はかかりますので、慌てて料理を口へかき込むということはありません。
部屋が少しだけ狭い
また、火葬場の食事をする部屋はさほど広くはありませんので、参列者が多い場合は少し狭く感じてしまうかもしれません。
ただ、長時間そこにいるわけではないですし、逆に皆で一緒に話がしやすくて良いかもしれません。
他の家(他の葬儀の家)の人たちが大勢いる
火葬場は当然ながら他の家の人たちも同じように食事をしています。
そのため、壁一枚隣には他の家の人たちの声が聞こえてくることもあります。
また、タイミングによってはトイレが混んでしまうことなどもあります。
そもそも火葬場の雰囲気自体が苦手な人にとっては苦痛
ぼくみたいなお坊さんにとって火葬場は何のマイナスイメージもありませんが、一般的にはあまり良いイメージの場所ではないと思います。
まして、たくさんのご遺体が火葬されている場所ですから、気分的にできるだけ火葬場に滞在したくないと思う人もいます。
そのような人にとっては火葬場での精進落としは苦痛な時間になってしまうことがあります。
以上のようにデメリットも紹介してみました。
食事の時間が限られ少し急かされたような気分になりますが、それ以外はさほど気にならないんじゃないかと思います(ぼくの感覚ですけど)。
式場へ戻って食事をする
ぼくとしては火葬場での精進落としをオススメしていますが、当然ながら式場に戻ってから行うという選択もあります。
ここでは、火葬場で精進落としをせず、式場に戻ってから行う場合のメリットとデメリットを紹介していきます。
なお、式場に戻る場合、収骨までの間は簡易的な食事(『おしのぎ』といいます)だけで済ませるというケースがほとんどです。
式場へ戻って食事をするメリット
式場に戻ってからの精進落としには、
- 時間に余裕があるので、ゆっくりと食事ができる
- 他の家(他の葬儀の家)の人たちがいないので、少しくらい騒いでも大丈夫 ※式場によっては他に1〜2組ほどいるかもしれません
- 食事の部屋を広々と使える
といったメリットがあります。
時間に余裕があるので、ゆっくりと食事ができる
火葬場のように収骨までの時間内に食事を終える必要がないため、比較的ゆっくりと食事ができます。
しかし、時間があるといっても式場の使用可能時間は決まっていますのでご注意ください。
他の家(他の葬儀の家)の人たちがいない
式場の場合、火葬場のように他の家の人たちが大勢いるということはありませんので、余計な気遣いをせずにすみます。
少しくらいであればワイワイと騒いでも他の家に迷惑をかけてしまうなんてことはありません。
ただ、大きな式場の場合は他の家も精進落としをしていることがあります。
食事の部屋を広々と使える
多くの式場には食事をするための部屋があります。火葬場に比べると広々としているので、ゆったりと使うことができます。
このように、式場に戻って精進落としをすることは、火葬場での食事よりもゆったりと余裕をもって食事の時間とスペースを取れるところがメリットになります。
式場へ戻って食事をするデメリット
続いて式場に戻ることのデメリットは、
- 食事の始まる時間が遅くなる
- 解散の時間が遅くなる
この2点になるかと思います。
食事の始まる時間が遅くなる
式場に戻る最大のデメリットがこれです。
お葬式がとても早い時間に始まるのであれば問題はありませんが、そうでなければ、お葬式開始〜式場に戻ってくる時間を考えると、食事が始まる時間は午後2時30分〜4時となってしまいます。
火葬場での軽食があるとはいえ、これでは、参列者の方々はお腹が空いてしまいます。
解散の時間が遅くなる
精進落としの始まる時間が遅くなるということは、解散の時間もそれだけ遅くなるということです。
遠方から来ている人は帰宅時間が遅くなってしまいますし、場合によっては宿泊を余儀なくされることもあるかもしれません。
以上のように、やはり、一度式場に戻ってからの食事だと、全体的に時間が遅くなってしまい、そのため、喪主も参列者もその分だけ疲れてしまいます。
それ相応の事情がない限り、式場に戻ってからの精進落としは避けた方がよいとぼくは思います。
まとめ : 食事の場所とタイミングは自由ですが、よく考えてくださいね
お葬式の参列者への【おもてなし】となる精進落とし。
みんな、忙しい中で時間をとって故人にお別れをしに来てくれたのです、できるだけ参列者への配慮をすべきでしょう。
配慮すべきことはたくさんありますが、その中でも一番気をつかうのが【食事】だとぼくは思います。
どれだけ盛大な告別式を執り行ったとしても、参列者の記憶に残っているのは『食事の時』のことが多いからです。
食事をしながら参列者みんなで故人の話をする。たぶん、この時が一番みんなが自然に故人を偲んでいる状態なんじゃないかと思います。
式の途中は、みんな少し緊張状態になります。お焼香の順番とか作法が気になったりしますし、故人のこと以外にも気がいってしまうものです。
そういったものが全て終わった後の食事の時間が、一番自然に故人のことだけを考えられる時間です。
ですから、食事の時間というのは、ある意味で法要よりも大事だと言っていいと思いますよ。
その大事な食事において、喪主はどのように参列者を【もてなす】のかを考える必要があります。
食事の場所はどこにするべきか、開始できるのは何時くらいなのか、どんな内容の料理を振る舞うのか、ここを慎重に考えてください。
その後の法事の時に「◯◯さんのお葬式の時はねぇ」と話題にあがる可能性は大ですよ。
お葬式は故人のため、食事は参列者のため、何を優先すべきかをそれぞれに分けて考えた方がよいと思います。
この記事は、『食事』の部分にスポットを当て、ぼくの経験を含めて総合的に考えた結果、精進落としは火葬場でした方が良いということをお伝えしたくて書きました。
お葬式の喪主を務めるは本当に大変です。数日間でやる事や決める事がとても多いです。
でも、そんな喪主に対して誰よりも感謝しているのは故人だと思います。
お葬式は故人への最後の恩返しです、大変ですが頑張ってください!