お坊さん歴20年以上の未熟僧と申します。
- 塔婆の意味
- 塔婆を建てる理由
- 塔婆の申し込み手順と古い塔婆の処分方法
一部の宗派を除いて、法事やお盆供養など【故人の供養】をするときには『塔婆』を建てます。
しかし、故人の供養のたびに塔婆を建てていても【塔婆の意味】や【塔婆を建てる理由】というのがイマイチ分かりませんよね。
塔婆を建てることには、
- お墓を建てるのと同じご利益
- 故人に向けた手紙の役割
という重要な意味があります。
じつは、せっかく故人の供養をするなら塔婆を建てておいた方が《お得》なんです。
最後まで読むと、塔婆の意味と必要性が分かりますので、ぜひチェックしてみてください。
塔婆(卒塔婆)の意味
『塔婆』とは、ご先祖様や故人を供養するときに建てる【木製の長い板】のことです。
正式には『卒塔婆(そとうば・そとば)』といいます。
塔婆の起源は、お釈迦様の遺骨を納めた土饅頭のお墓である『ストゥーパ』だといわれています。
塔婆の正式名称である『卒塔婆(そとうば)』の語源は、この『ストゥーパ』が由来です。
『ストゥーパ』は『仏塔』とよばれ、『仏塔』はやがて『五重塔』に形が変わります。
あなたも『五重塔』と聞けば何となく形をイメージしやすくなりますよね?
そして、さらに『五重塔』をもとに『五輪塔』が造られました。
『五輪塔』は、最近ではあまり見かけなくなりましたが、下の画像のような昔ながらのお墓の形です。
五輪塔の形は、【五輪】という名のとおり『5段構成』で造られており、それぞれの段の意味は、
- 【最上段】の宝珠形の部分は『空』
- 【4段目】の半円形の部分は『風』
- 【3段目】の三角形の部分は『火
- 【2段目】の円形の部分は『水』
- 【最下段】の四角形の部分は『地』
となっています。
仏教では、これらの5つを『全宇宙を構成している5つの要素』として考えています。
そして、塔婆にはいくつかの【切り込み】が入っていますが、これによって『五輪塔』に形を似せているのです。
五輪塔は現在のお墓の原形なので、つまり、【塔婆】を建てるのは【お墓】を建てることと同じなんです。
塔婆は法事やお盆供養のときに建てますが、特に【◯◯のときに建てなくてはいけない】という決まりはないので、いつでも建ててかまいません。
また、塔婆は、法要の代表者である施主だけでなく、参列者の誰でも建てることができますので、できるだけ多くの方々に建てていただきたいなと思います。
塔婆の長さについてはいろいろありますが、だいたい《120cm~180cm》くらいが一般的なサイズです。
しかし、霊園などでは建てられる塔婆の長さに制限を設けているところもありますので、法事などで塔婆を建てる場合は事前に確認をしておく方がよいでしょう。
塔婆を建てる理由
続いて『塔婆を建てる理由』について書いていきます。
塔婆を建てる理由は、
- 塔婆を建てることで『最高級の供養』になる
- 塔婆が『故人に宛てた手紙』の役割をする
という2つがあります。
塔婆を建てることで『最高級の供養』になる
法事やお盆のときに塔婆を建てるのは、ご先祖様や故人を【供養】するためです。
しかし、それだけではありません。
じつは、あなたが塔婆を建てて供養をすれば、あなた自身にも【最高級のご利益】があるんです。
亡くなった人を偲び心を込めて供養するという行為は、仏教の考え方においては【善行=良い行いをすること】になります。
そして、善行をした人は『福徳(功徳)』が得られるといわれています。
つまり、亡くなった人を供養することで私たちにも【仏様のチカラやご利益】が注がれるというわけです。
では、亡くなった人に対してどんな供養をすればいいのでしょう?
1番良い供養は『お墓を建てる』ことです。
供養にはいろんな種類がありますが、その中でも『お墓を建てる』ことが【最高級の供養】になります。
ということは、『お墓を建てる』ことによって、お墓を建てた人に注がれる《仏様のチカラやご利益》も【最高級】になるんですよね。
ここで話を【塔婆】に戻します。
先ほど、『塔婆を建てることは、お墓を建てることと同じ』と説明しました。
ですから、塔婆を建てることは故人に【最高級の供養】をすることになり、そうすると必然的に、塔婆を建てた人にも【最高級の仏様のチカラやご利益】が注がれる、ということなんです。
すごいですよね、塔婆を建てることで【亡くなった人たち】と【塔婆を建てた人】がお互いに最高級のメリットを得られるのですから。
ですから、法要のときには塔婆を建てた方が《お得》だと思うんですよね。
塔婆が『故人に宛てた手紙』の役割をする
塔婆は『故人に宛てた手紙』の役割があるといわれています。
亡くなった人は、仏様の世界(=あの世)でいろんな修行を続けておられます。
そんなあの世の故人に向けて、塔婆という形でこの世から『手紙=メッセージ』を送ることができるんです。
塔婆には、分かりづらいですが表面と裏面がちゃんとあります。
表面には、【仏様を表す文字】や【故人の戒名】、そして【◯◯回忌】などの法要内容が書かれています。
裏面には、同じく【仏様を表す文字】、そして【塔婆を建てた日付】や【塔婆の建立者名】が書いてあります。
つまり、
- 【塔婆の表】:手紙の『宛名』と『本文』に相当
- 【塔婆の裏】:手紙の『差出人』と『書いた日付』に相当
ということになるんです。
塔婆を建て、あの世の故人に向けて「今日はみんなで◯◯回忌の法要をしましたよ。そちらでの修行はどうですか?いつも見守ってくれてありがとうございます。」と手紙を出すのです。
あの世で修行を続けている故人は、あなたや他の家族、または親戚や知人達からの手紙を受け取ります。
ちなみに、浄土真宗では塔婆を建てることをしていません。
浄土真宗には、【阿弥陀様がすべて救ってくださる】という『他力本願』という考え方により、そもそも《仏道の修行をしている故人を供養する》という発想自体がありません。
ですから、当然ながら塔婆の供養をすることもないのです。
塔婆の申し込み手順
ここで、塔婆を建てるときの手順を簡単に紹介しておきます。
塔婆は【寺】または【霊園】に申し込みをしてください。
塔婆は以下の手順で申し込みましょう。
- 位牌に書いている内容を確認し、戒名などをメモしておく
- 霊園で建てられる塔婆の長さを確認する〈※霊園にお墓がある場合〉
- 寺で用意してもらえる塔婆の長さを確認する〈※霊園にお墓がある場合〉
- 申し込みをする時に、【塔婆を建てたい日】を伝える
- 塔婆の申込書へ、位牌のメモを見て戒名などを記入する
- 塔婆を建てる人の名前(漢字や読みがな)を正確に伝える(=申込書へ記入する)
- どんなに遅くても、法要の1週間前までに申し込む〈※法要当日に申し込むなんて言語道断!〉
- できる限り電話での申し込みはしない
- 塔婆料の相場は、2,000円~5,000円程度
ザッとですが、流れはこんな具合です。
塔婆には、【◯◯家先祖代々】あるいは故人の【戒名】など、誰にどのような供養をしたのかが書かれています。
塔婆の申し込みをするときには、塔婆に書き入れる《戒名》を申込書に記入しますので、位牌を見てメモするなどして、あらかじめ確認をしておいてください。
また、霊園にお墓がある人は【塔婆の長さ】にも注意です。
まず霊園で建てられる長さを確認し、それから、付き合いのある寺には[その長さの塔婆でも問題なく申し込めるのか]を確認してください。
寺の敷地内にあるお墓へ塔婆を建てるという人は、わざわざ塔婆の長さの確認をする必要はありません。
寺ごとで決められた塔婆しか建てられませんのでね。
塔婆料の相場は、1つにつき2,000円〜5,000円くらいだと思います。
霊園などでは、塔婆の【お焚き上げ料=焼却供養料】も一緒に支払うところが多いので、事前に確認しておくとよいでしょう。
お焚き上げ料は塔婆1つにつき300〜500円程度必要となるのが一般的です。
それでは、申し込みを進めていきます。
まずは、寺あるいは霊園へ【いつ塔婆を建てたいのか(=塔婆に書き入れる日づけ)】を必ず伝えてください。
次に、位牌のメモを見ながら、塔婆の申込書に戒名などを記入します。
そして、申し込みをする際には、塔婆を建てる人の名前を正確に伝えて(記入して)ください。
このときに、ちゃんと名前の読み方も伝えましょう。
人の名前ってけっこう厄介なんですよね。
「えっ?この漢字でそう読むの?」みたいな名前の人、あなたの周りにもいませんか?
塔婆の申し込みのときは、電話ではなく【書面で伝える】ようにしてください。
というか、お坊さんの立場としては、是非とも書面での申し込みをお願いしたいです。
大切な塔婆に間違いがあると嫌じゃないですか、施主も寺もお互いに。
なので、寺や霊園によってはメールで申し込みを受け付けるところもあります。
最後に、これも重要なところですが、塔婆の申し込みはどんなに遅くても法要の1週間前までに済ませてください。
塔婆は、木の板に墨で書き入れます。
墨の種類によっては、しばらく乾燥させておかないと、書いた文字が雨に濡れてツーっと流れてしまうことがあるんですよ。
そして、まれに法要当日に追加の申し込みをする人がいますが、あれはマジで勘弁して!!!
塔婆は【居酒屋のビール】じゃないんです。
「すいませ~ん、塔婆一つ追加ねっ!」って言われて、数分後に「失礼しま~す、こちら塔婆になりま~す。」みたいに出てこないから!
塔婆の申し込みは【法要の1週間前まで】です、なにとぞご協力をよろしくお願い申し上げます。
ちなみに、塔婆を建てるタイミングのほとんどは回忌法要(=法事)をする時です。
法事に関することは、別記事の『法事をする必要性と意味。法事の注意点も合わせて解説します』で詳しく書いていますので、ぜひ読んでみてください。
古い塔婆はどうすればいいの?
あなたが法要のたびに塔婆をちゃんと建ててくださると、いずれはお墓の後ろが塔婆でいっぱいになってくるはずです。
そうなると、きっと「新しい塔婆を建てたくても、古い(前の)塔婆はどうすればいいんだろう?」と思うことでしょう。
そのようなときには、日付の古い塔婆から順番に撤去していけばいいですよ。
例えば法事(回忌法要)の塔婆であれば、あなたが【三回忌】の塔婆を建てる場合には、前回の【一周忌】の塔婆はすべて撤去してかまいません。
また、お盆の塔婆であれば、同じように前年のお盆の塔婆はすべて撤去してかまいません。
あとは、どこの寺や霊園にも『古い塔婆を納める場所』がありますので、そこへ古い塔婆を納めればOKです。
卒塔婆の音がうるさい!
塔婆というのは、風を受けて揺れるとカタカタと音がしますが、これがけっこう《うるさい》です。
そのため、墓地の近くに住んでいる人にとっては、風が強い日なんかは塔婆のカタカタ音がまるで【騒音】のように聞こえます。
お墓の後ろには『塔婆建て』があり、そこへ塔婆を差し込むようにして建てるのですが、風が吹くと塔婆が揺れて、塔婆本体と塔婆建てが接触することで音が出るんですよね。
塔婆建てには【石製】のものと【ステンレス製】のものがあり、どちらも塔婆と接触するとうるさいのですが、ステンレス製の方が少しだけ音が大きいです。
じつは、塔婆の音を気にしているのは墓地の近くに住む人たちだけではなく、お墓を使用している本人も同じです。
塔婆の音を気にする人の中には、塔婆が揺れないように塔婆本体を塔婆建てにロープで結んで固定している人もいます。
塔婆の音は確かに気になりますが、故人の供養において塔婆は非常に重要なものであり、お墓には付き物なので、どうかご容赦をいただきたいと思います。
まとめ : 塔婆を建てよう!
法事やお盆供養をするときには『塔婆』を建てましょう。
塔婆を建てることには、
- お墓を建てるのと同じご利益
- 故人に向けた手紙の役割
という意味があります。
塔婆を建てることは、故人にとっては【最高級の供養】になり、あなたにとっても【最高級のご利益】をいただくことになります。
つまり、塔婆を建てれば故人もあなたもお互いに《お得》なのです。
浄土真宗の信者さんには必要ありませんが、他の宗派の信者さんはせっかく故人の供養をするなら建てた方がいいですよ。
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