お坊さん歴20年以上の未熟僧と申します。
この記事を見に来られたということは、
- 自分の家の墓に【妻の実家の仏様】も一緒に納骨したい
とお考えなのでしょう。
となると、場合によっては、
【両家墓】を建てる
ということも視野に入れているのでしょうか?
最近は【両家墓】を建てる人が増えてきましたね。
現在のところ【両家墓】はまだ少数ですけど、今後さらに増えることは間違いないでしょう。
両家墓は多くの人が抱えているさまざまな『お墓に関する問題』を解決してくれて便利ですからね、みんなが注目するのは自然なことですよ。
私も、両家墓を建てることには基本的に『賛成』ですし、個人的には『おすすめするお墓の形式』でもあります。
でも、両家墓にはメリットだけでなく、やはりデメリットも当然あります。
メリットばかりに目が行ってしまうと必ず後悔します。
メリットとデメリットをちゃんと理解した上で両家墓を建ててくださいね。
この記事では、【両家墓】を建てようと考えているあなたのために、
両家墓のメリットとデメリット
を、お坊さんとしての経験をもとに書いています。
両家墓を建てたことを後悔しないためにも、ぜひ最後まで読んでみてください。
なお、この記事では説明をしやすくするために、
- あなたの奥様の実家のお墓には継承者がいない
ということを想定して書いています。
両家墓はおすすめです
日本は『少子高齢化』がどんどん進んでいます。
少子高齢化という問題は、そのまま『お墓の継承者の問題』にもなるんです。
実際に私のいる寺でもお墓を継ぐ人がいなくて困っている信者さんがたくさんいます。
しかも最近では、お墓のことだけではなく【お葬式】や【法事】なども執り行わないという人まで増えて、いわゆる『仏教離れ』も急速に進んでいます。
そのような状況もあるせいか、今までのように【お墓を継承する人】がいなくなり、結果的に【無縁墓】となってしまうお墓が増えています。
お坊さんである私としては、この無縁墓をできるだけ減らしたいんですよね。
そこで、この【無縁墓】を無くす方法の一つとして、
両家墓(りょうけばか)
を建てるという選択をおすすめします。
この【両家墓】というのは、
姓が違う家のお墓を、一つのお墓に統合してしまう
ことです。
つまり、夫婦どちらかの実家のお墓に継承者がいない、という場合に両家墓を建てるわけです。
お墓というものは、誰かがお参りをしてナンボです。
誰も継承者がいないのであれば、近い将来には【無縁墓】となってしまいます。
もちろん、お墓じまいをしてご遺骨を【永代供養墓】へ納骨するという選択肢もあります。
しかし、それはあくまでも最終手段。
家族はダメでも、他に親族の誰かが継承できるのであれば、その人がお墓を守ってくれるのが理想です。
でも、継承できる親族の人だって、すでに自分のお墓を持っているかもしれません。
自分の家のお墓以外にも別のお墓を守っていくなんて、そんなに簡単なことじゃない。
複数のお墓を管理するのはかなり大変ですから、一つのお墓を守るだけで精一杯なはずです。
そこで、自分の家のお墓と親族(配偶者側)のお墓を一緒にしてしまう、という発想が生まれたんですね。
自分の家のお墓に統合してしまえば、管理もできるし、お墓参りも一ヶ所で済みます。
両家墓は、お墓の管理の負担を増やすことなく、なおかつ無縁仏を出さなくていいという素晴らしいお墓の形式だと思います。
お墓の継承者がいない場合は、まずこの『両家墓』を先に考えてみてください。
両家墓は新しく建てなくても大丈夫
あなたは両家墓を建てる時に、【新しいお墓を建てなきゃいけない】と思ってないですか?
べつに両家墓は新しく建てなくても大丈夫ですからね。
もしも今、すでにあなたの家のお墓があるのなら、
- 墓石の正面の彫刻(文字)を変えてしまう
だけでいいんですよ。
変えてしまうというか、正確には、
墓石の正面を一度全部削ってしまい、改めて文字を彫り直す
ということです。
全部削った正面には、
- あなたと奥様の実家の両家の苗字を並べて彫る
- 両家の苗字ではなく『先祖代々之墓』とだけ彫る
のどちらかを選べばいいでしょう。
そして、墓石の左右の側面のスペースに余裕があれば、そこへ新しく入った仏様達の戒名などを彫刻します。
もちろん、墓石の側面ではなく、別に設けられた『墓誌』の方へ彫刻しても大丈夫ですよ。
これで、両家の仏様が入ったお墓であることがわかるようになります。
えっ?
正面の彫り直しをせずに、今のままで両家墓として使いたいんですか?
まぁ、じつは、それでも大丈夫なんですよ。
大丈夫なんですけど、私としてはちゃんと彫り直してほしいなと思います。
たしかに、お墓の正面を全部削って、そこへ新たな文字を彫るには、それなりの費用が必要です。
しかし、お墓を新しく建てる費用に比べれば、その10分の1以下の金額で足りるでしょう。
だったら、ちゃんと両家の仏様を敬うという意味でも、墓石の正面を彫り直すべきだと思いますよ。
ちなみに、もしも、あなたが『彫り直し』ではなく『新しく建てる』というつもりなら、ぜひそのようにしてください。
それが一番理想的で、両家の仏様に対して【最高の供養】ができますから。
【関連記事】:お墓の意味や役割とは何?お墓参りでお墓はパワースポットに育つ?
両家墓を建てるメリット
私が両家墓をおすすめするということは、それなりにメリットがたくさんあるからです。
ここでは、私が「これは大事なメリットだな」と思うものを紹介していきます。
無縁墓にせず両家の仏様をお参り(供養)できる
両家墓の大きなメリットの一つは、
- 継承者のいないお墓を【無縁墓】にせずに済み、なおかつ両家の仏様をお参り(供養)できる
ということです。
両家墓にすることの目的は基本的にコレです。
両家墓にするということは、継承者がおらず無縁墓となるはずだったお墓から遺骨を取り出して、それを継承者のいるお墓へ移すわけです。
これによって、継承者のいないお墓は【墓じまい】がされて無縁墓とならずにすみます。
そして、遺骨の方は継承者のいるお墓へ移されて、そこでちゃんとお参り(供養)をされるのです。
納骨された仏様も無縁仏とならずにすみますので、
じつはコレ、寺側としても非常に助かるんですよね。
寺にとって一番困るのは『誰もお参りに来ない無縁墓ができてしまうこと』なんです。
誰も来ないお墓というのは、寺にとっては、
- 管理されていないので雑草が生え放題で迷惑
- 誰もその家の仏様の供養をしないし、墓地の管理料も徴収できないから1円の収入にもならない
- それでいて、貴重な墓地の一つを占領されてしまう
という、かなり困った存在なんです。
誰も来ないからといって、勝手に墓じまいをしてしまうわけにもいきませんからね。
まぁ、本当は然るべき手順を踏めばできないこともないんですが、実際のところ、そこまではしません。
ですから、無縁墓にせず遺骨を引き取ってくれる人がいると、寺側としては本当にありがたいんです。
墓地が1つだけなので経済的にラク
複数のお墓を一つに統合するということは、『お墓の管理にかかる費用』も一つにできるということです。
お墓の管理にかかる費用は、
- 墓地の年間管理料
- お墓参りの時の費用
- 行事ごとの供養料や寄付
などです。
これらを一か所だけにできるというのは、経済的に大きな負担軽減になります。
ただでさえ、お墓を手放してしまう人の中には【お墓を維持するだけの経済的な余裕がない】という理由も多いのです。
ですから、複数のお墓を管理したりお参りするなんてメチャクチャ大変なんです。
墓地の年間管理料
お寺や霊園などにお墓がある限り、
墓地の年間管理費
が必要です。
年間の管理費は、そのお寺や霊園によって設定価格がまったく違いますし、その他にも、
- 墓地の大きさ
- 建っている向き
によって変わります。
私の知っている限り、年間管理費の金額は、
- 1,500円~32,000円
とかなりの差があります。
管理費の価格が安い墓地だといいのですが、高い価格の墓地を複数管理していると、それだけで数万円の出費です、しかもそれが毎年ね。
お墓を一つに統合することは、それだけで年間の出費を確実に抑えることができます。
お墓参りの費用
お墓を複数管理していると、
- それぞれのお墓にお墓参りをする
ということになります。
これはけっこう大変なことですよ。
それぞれのお墓が近くにあるんならいいですけど、離れた場所にあったらいちいち移動するだけでも一苦労です。
それに、お墓へ行くまでの交通費などがそれぞれに必要となりますよね。
それだけではありませんよ。
お墓参りに行く時は【お花】を持って行くでしょ?
それだって、それぞれのお墓ごとに必要なんですよ?
あっ、厳密に言えば【お線香】だって必要だし、【お供物】も供えるんじゃないですか?
このように、お墓の数だけ『お墓参りの費用』が必要です。
これがお墓を一か所にできれば、ずいぶんとお墓参りの費用が減らせるはずです。
行事ごとの供養料や寄付
お寺にある墓地を複数管理するのはマジでやめた方がいいですよ。
お坊さんである私が言うのですから間違いない。
まず、お寺にお墓がある場合、お盆などの行事のたびに『供養料』を納めなくてはいけません。
日本のお寺でお盆供養をしていないところなんて、まぁ無いでしょうね。
当然ながらお盆は毎年あるので、そのたびに【数千円~数万円】を納めるわけですよ。
複数の墓地を管理していれば、その数の分だけ負担が増える、ということですからね。
さらに、です。
お寺の墓地の大きなデメリットの一つである『寄付を要求される』という可能性があります。
お寺の仏具などは、その金額がいちいち【クソ高い】んですね。
ましてや、本堂の建て替え事業となれば『億単位のお金』が必要になります。
そうなると寺の財産では到底まかなえないので、信者のみなさんに寄付を募ります。
寺が募る寄付というのは、【一人あたり数千円】というわけにはいかない。
どんなに少なくても、【数万円〜数百万円】という金額になってしまいます。
もしも、複数の寺の墓地を管理していて、同じ時期に寄付を要求されたらどうします?
だから、お寺の墓地を複数管理するのは絶対にヤメておいた方がいいんです。
できるだけ早く一つのお墓に統合しましょう。
そうすれば、行事の供養料や寄付を一か所分に減らせますから。
墓地が1つだけなのでお墓参りがラク
お墓を一つに統合するメリットには、単純に、
お墓参りがラクになる
ということもあります。
一か所だけに行けばいいんだから、先ほど言ったような【費用の面】だけではなく、
- 体力的な面
- 時間的な面
でもラクができます。
普通に考えたら、何時間もかけて複数か所のお墓参りをするなんて疲れちゃうでしょ?
それが両家墓なら一か所ですべての仏様を供養できるんですから、かなり体力的な負担を減らせると思いますよ。
それよりも大事なのは、
- 時間の節約ができる
ということ。
時間はすべての人に平等に与えられているんです。
だから、時間は有効に活用しなきゃダメです。
あっ、複数か所のお墓をお参りすることがダメだと言ってるわけではないですよ。
余計な時間を省略できるのであれば、その方があなたの人生をより豊かにできますよ、と言いたいのです。
つまり、両家墓にした方が『あなたの人生にとってプラスになることが多い』と言っているんです。
両家墓を建てるデメリット
両家墓にはメリットだけではなく、当然ながらデメリットもあります。
このデメリットの部分をちゃんと理解してから両家墓を建てないと、後になって面倒な事態を招きます。
ここからは、私が今まで見てきた『両家墓のデメリット』を紹介します。
家紋の問題
日本の場合は、家ごとに家紋があります。
昔のお墓には、正面に家紋が彫られていることが多いんですね。
ところが、両家墓となると、あなたの家の家紋と奥様の実家の家紋のどちらを彫ればいいのでしょうか?
両方の家の家紋を彫ればいいんでしょうか?
私は両家の家紋が彫られているお墓を見たことがありません。
きっと、両家の家紋を彫る【スペースの問題】と【見た目の違和感】が原因なのでしょうね。
なので、両家墓を建てるなら家紋は彫らなくていいと思いますよ。
両家墓は家紋のような目立つ彫刻はあまりしない方が無難です。
あなたの親戚の中に両家墓というものに理解のない人が見たら、もしかしたらイヤミの一つくらい言われるかもしれません。
それに、最近ではお墓に家紋を入れる人の方が珍しいのです。
余計なトラブルも避けられますし、家紋を彫るのだってお金が必要ですから、両家墓に家紋は無しでいいんじゃないでしょうか?
戒名などの彫刻の際に注意が必要
両家墓の場合は、戒名などを彫刻する時に少し注意が必要です。
墓石には納骨されている人の戒名や生前の名前が彫刻されます。
ちなみに、戒名や生前の名前を彫るのは、墓石の左右の側面です。
で、問題は生前の名前の彫り方です。
普通なら苗字は彫らずに名前だけを彫ります。
苗字は墓石の正面に『◯◯家之墓』と彫ってあるんだから、わざわざ側面にもう一度苗字を彫る必要がないわけです。
しかし、両家墓となると話が変わります。
名前だけ彫ると、それがどちらの家の仏様なのかがわからなくなってしまうんです。
ということで、両家墓の場合は、生前の名前をフルネームで彫刻する必要があるんですね。
これをちゃんと石材店に伝えておかないと、全員分の彫刻が名前だけになってしまい、後代の人たちが見たら『誰がどちらの家の仏様なのかがわからない』という事態を招いてしまいます。
だから、両家墓には必ず『フルネーム』で彫刻するように注意しなきゃダメです。
しかし、苗字も彫るということは、それだけ【字数】が増えますので、場合によっては彫刻の代金が少しだけ上がるかもしれません。
戒名などの彫刻にいちいち注意しなきゃいけないのはデメリットになってしまいますよね。
離婚をすると面倒なことに・・・
めったに無いことなんですが、これがあると非常に面倒なことになるので、じつはこれが両家の最大のデメリットでしょう。
それは、
離婚
です。
特に、両家墓を建てた土地も墓石も完全に新規購入だった場合はモメます。
両家墓を建てた後に、残念ながら離婚せざるを得ない状況になってしまったとします。
まず、建てた両家墓を離婚後は夫側と妻側のどちらが使うのか、という問題が出ます。
どちらか一方はお墓を出なくてはいけないですよね。
出た側は、また新たにお墓の準備をしなくてはいけません。
それにはかなりの労力と金銭的な負担が発生します。
だから、お墓から出る側の人はかなり大変なのです。
となると、どちらがお墓を出るのかを決める時が一番モメるわけです。
そして、誰がお墓をそのまま使うのかが決まったとします。
そのまま使う側もやるべきことがあります。
まず、墓石に刻まれた文字は全面的に彫り直しですよね。
正面の両家の名前だったり、左右の側面の各仏様の戒名や生前の名前とかね。
後は、納骨されているすべての遺骨を取り出して、両家で分けていかなくてはいけません。
お墓から遺骨を取り出す時の作業費用、墓石の彫刻のやり直しの作業費用、これらでも10万円は超えてしまうでしょう。
考えたくないことだとは思いますが、両家墓は離婚をしたら大変だ、ということは覚えておいてくださいね。
まとめ:両家墓はおすすめです。でも、デメリットの部分もちゃんと理解してから建ててください。
少子高齢化の進む日本。
じわじわと進む仏教離れ。
そのような状況下では、お墓を継承者する人が少なくなっていくのは当然のことです。
そうなると、
- 自分の家のお墓に【配偶者の実家の仏様を一緒に納骨する】
という、いわゆる『両家墓』を選択するケースが増えていきます。
きっと、『両家墓』増加の流れはそのまま止まらないでしょう。
でも、その流れは決して悪いことではないと思います。
どちらかというと、私は両家墓をおすすめしている側です。
お墓は、誰かがお参りをしてこそ存在意義があるんじゃないでしょうか?
継承者がおらず誰もお参りしないような【無縁墓】になってしまっては、その家の仏様に対して失礼です。
だったら、複数の家のお墓を一つにできるのであれば、その方が無縁墓になってしまうよりもずっとイイと思いますよ。
ただし、両家墓にはメリットだけではなく、それなりにデメリットがあることも事実です。
メリットだけに目が行ってしまうと、後になって思わぬデメリットに気づき両家墓を建てたことを悔やむことになってしまうかもしれません。
お墓はずっと守っていくものですから、デメリットの部分もちゃんと理解した上で、みんなが納得してから両家墓を建ててくださいね。
※こちらの記事もご参考にどうぞ。