お坊さん歴20年以上の未熟僧(みじゅくそう)と申します。
- お墓の前で法事をしたい
- 法要の後にお墓参りをするんだったら、最初からお墓の前で法要をやればいいんじゃないの?
- お墓の前で法事をするメリットとデメリットを知りたい
法事というのは『お寺の本堂』や『施主の自宅』で行われることがほとんどです。
でも、最近では、
お墓の前
で法事を行いたいという人が急増しています。
おそらく、
- 法事にはあまり多くの人を呼ばずに、できるだけ【故人と近い関係の人たちだけ】で行いたい。
- 法事を、なるべく費用を抑えて、できるだけ簡単にすませたい。
- 新型コロナウイルス感染対策のために外で行いたい。
と考える人が多いからですね。
法事はお墓の前でも行えます。
お墓の前で法要をすることを、
『墓前法要(ぼぜんほうよう)』
といって、最近ではよく行われている法要形態なんです。
ただし、
墓前法要はデメリットの方が多い
ので注意が必要です。
というか、僕は『墓前法要』はやむを得ない事情がないかぎりヤメた方がいいと思いますけどね。
この記事を読むと、
- お墓の前での法事(墓前法要)とは何か
- 墓前法要のメリットとデメリット
が分かります。
最後まで読んでいただき、墓前法要についてちゃんと理解してから法事の準備をしてくださいね。
墓前法要とは何か?

あなたは『法事をする場所』といえばどんな所をイメージしますか?
きっと、
- お寺の本堂
- 施主の自宅
- 霊園の法要室
- 民営・公営の式場
などですよね?
そうなんです、それが一般的です。
ところがですね、ここ数年で【お墓の前での回忌法要】を希望する人が増えているんですよね。
お墓の前で回忌法要を行うことを、
墓前法要(ぼぜんほうよう)
といいます。
正確には、回忌法要だけでなく、納骨供養やお墓への魂入れ供養など【お墓の前で法要を行うこと】を総称して墓前法要といいます。
お墓の前ですから、ほとんどの場合は《屋外》で法要を行うことになります。
ちなみに、先ほど例に挙げたような【お寺の本堂】や【施主の自宅】などは《室内》ですが、だからといって、それらを総称して『室内法要』とはいいませんのでご注意ください。
この記事を読んでくれているということは、あなたも墓前法要をしようと考えているわけですね?
たしかに墓前法要はメリットが多そうですからね。
一般的な法事では、回忌法要をお寺の本堂や施主の自宅などで行い、その後に参列者みんなでお墓参りをします。
しかし、『墓前法要』はすべてをお墓の前で行うので、回忌法要とお墓参りを同時に行うことができるんです。
ですから、【法事の簡略化】という点ではとても優れた法要形態なんですよね。
ただ、僕は『墓前法要』はあまりおすすめできません。
一般的に法事が行われる【お寺の本堂】や【施主の自宅(仏壇の前)】では、目の前に『ご本尊様』がいますので、供養に適した環境で回忌法要ができます。
でも、お墓の前だと『ご本尊様』はいませんし、法要で使いたい仏具もなかったりしますので、正直言うと供養に適した環境ではないんです。
それに、後述しますが、いろんなデメリットがあるのも難点です。
そうはいっても、それが施主の希望であればお坊さんとしても意向に沿ってあげたいですし、お墓の前で供養ができないわけでもありません。
だから、強い要望があれば墓前法要を行いますよ。
結局は施主が決めていいんですが、【故人の供養】というのを優先的に考えて法事の場所を選んでほしいと思います。
【関連記事】法事をするなら自宅よりお寺がおすすめ!それぞれのメリットとデメリットを解説
墓前法要のメリット

墓前法要を選ぶ人が増えているということは、それなりに墓前法要のメリットがあるからです。
墓前法要のメリットは、
- 時間を短縮できる
- コロナ禍では『密閉』を避けられる
- 【お布施】が安くなる可能性がある
といったものです。
時間を短縮できる
先ほども言いましたが、墓前法要であれば回忌法要とお墓参りを同時に行うことができるんですよね。
ということは、法要場所からお墓まで移動をする必要がないので、
時間の短縮ができる
というメリットがあるのです。
お寺の場合、本堂からお墓まで参列者全員が移動するのに5~10分くらいはかかりますから、その時間を短縮できます。
みんな忙しい中をわざわざ来てくれているので、移動時間を無くすことができるのは立派なメリットです。
また、メチャクチャ細かいことを言えば、『お焼香をしている時間』も短縮できています。
一般的には、本堂の法要でお焼香をして、それからお墓ではお線香を供えます。
コレ、じつは故人に対して【お焼香】と【お線香】で、2回『お香』を供えていることになるんですよ。
つまり『お香』の重複になっているんです。
だから、それをお墓での【お線香】の1回だけですませることができているので、時間の短縮になります。
【関連記事】お香(こう)を供える意味とは?焼香の作法や線香の供え方も紹介します
コロナ禍では『密閉』を避けられる
2020年に入ってから『新型コロナウイルス』が猛威をふるっています。
とても感染力が強いウイルスなので、【大勢の人が1つの空間にこもる=密閉】という状態を避けなければいけません。
お寺の本堂はまだマシですが、施主の自宅だと『密閉』された空間に参列者がこもってしまいます。
でも、お墓は基本的に屋外にありますから、『密閉』になることはありませんよね。
このように、墓前法要であれば、
コロナ禍では『密閉』を避けられる
ということはメリットになりますね。
お布施が安くなる可能性がある
ここだけの話ですが、法事を【お寺の本堂や施主の自宅】で行うのと『お墓の前』で行うのとでは、納めるお布施の金額が違う場合があります。
というか、本来のお布施というものは『施主が自由に金額を決めるべきもの』なんですけどね。
でもまぁ、お寺によっては「◯◯円を納めていただけますか?」と具体的な目安を提示するところも多いでしょう。
具体的な目安を提示しているお寺は、《こんなケースは◯◯円で、こういう場合は△△円》みたいなカンジで、法要の内容や場所によってお布施の目安を設けているはずです。
それで、【お寺の本堂や施主の自宅】よりも『お墓の前』の方が、
お布施が安くなる可能性がある
のです。
『お墓の前』というのは、本堂に比べると準備することもずっと少ないですし、お寺の墓地であれば移動なんか無いに等しいです。
要するに、面倒なことがなくサッと法要を執り行えるので、その分だけお布施を安くするのです。
ただし、当然ながら【すべてのお寺がお布施を安くする】というわけではありませんから、過度な期待は禁物ですよ。
【関連記事】:お布施を安くしたいなら値引き交渉すべし!値切る方法と注意点を伝授
墓前法要のデメリット

たしかに、墓前法要にはメリットがあります。
しかし僕は、墓前法要というのはメリットよりもデメリットの方が多いと思っています。
多くの人はメリットばかりを見ていて、法要の当日になり大変な思いをしています。
どのようなデメリットがあるのか紹介しますので、よ~く読んでおいてください。
天候の影響をモロに受ける
まずは墓前法要の最大のデメリットから紹介します。
それは、墓前法要が屋外での法要であるがゆえに、
天候の影響をモロに受ける
ということです。
ものすごく正直に言うと、墓前法要の依頼があると、
って思っちゃいます。
自然のことは正確に予測なんかできやしません。
だから、法事当日の天候の良し悪しというのは、完全に【運】ですよね。
天候によっては法要中にずっと辛抱しなきゃいけない状況になってしまうんです。
大切な家族の供養なのに、あまりに【運まかせ】すぎるのが僕は嫌なんです。
大雨や雪だと悲惨です
僕が墓前法要をおすすめしない1番の理由は、
大雨や雪だと悲惨
だからです。
大雨とか雪の中での墓前法要って、もうホンマに嫌!
大雨の時は、施主や参列者はビショ濡れですよ、当然ながら僕もね。
しかも、風が吹いたら傘なんてほとんど役に立たない。
供えるお線香だって雨に濡れてなかなか火がつかないから、それで余計に時間がかかる。
おまけに、傘に当たる雨音がウルサくて、僕がお経を読んでる声なんかみんなにあまり聞こえてない。
でも、一番嫌なのは、
っていう参列者全員の無言の訴え。
そりゃそうですわ、全身が濡れているんですから「早よ終われや!」って思いますよ。
その気持ちがよく分かるだけに僕もツラいですが、法要を手抜きするわけにもイカンのです。
あとは『雪』ですね、コレも大変なんです。
雨の時と同じように、衣服に雪が着いてだんだん濡れてきます。
しかも、雪が降るくらいの気温ですから、雪で濡れたズボンはかなり冷たい。
お線香を供えるみんなの手は赤くなって、見ていて痛々しい。
そして、結局はまた、
っていう参列者全員の無言の訴えですね。
・・・だから、墓前法要なんかしなけりゃいいのに。
真夏の墓前法要は危険です
墓前法要には適さない季節があります。
それが、『真夏』です。
理由は単純、とにかく【暑い】から。
というか、
真夏の墓前法要は危険
ですよ。
僕が子どもの頃の真夏と、令和の真夏は別物です。
令和の真夏は日中に喪服を着ながら数十分も外にいちゃダメですよ。
墓地というのは基本的に日陰がほとんどありませんからね。
頭上からは【太陽の強烈な日差し】が降りそそぎ、それをピカピカに磨かれた墓石が照り返します。
それって、小さなお子様や高齢者にとっては身体へのダメージが大きすぎるんですよね。
真夏は家の中にいても熱中症のリスクがあるんです、それなのに日陰もないような場所に長時間いたらどうなりますか?
みんな暑さで真っ赤な顔をして法事に参加することになりますし、最悪の場合は倒れてしまいますよ。
そんな猛烈な暑さの中で法事なんかやっていたら、結局また、
っていう参列者全員の無言の訴えが届いてくるんですよね。
・・・だから、墓前法要なんかしなけりゃいいのに。
真冬の墓前法要はとにかく寒い!
墓前法要には適さない季節がもう1つあります。
それが、『真冬』です。
こちらも理由は単純、
真冬の墓前法要はとにかく寒い!
からです。
あなたは、【暑い】のと【寒い】のとでは、どちらの方が苦手ですか?
じつは、この質問に対して「寒い方が苦手だ」と答える人が多いのです。
そして、これは人間としてごく自然な答えなんですよね。
というのも、人間の身体というのは【暑さ】に対して他の動物にはないくらい強くできているのだそうです。
大昔は、暑い中を獲物を狙って追いかけまわしていたんですからね、暑さに強くないと生きていくことができなかったわけですね。
なので、他の動物よりもはるかに効率よく体内の熱を逃がして、暑い中でも長時間の活動ができるようになっているのです。
そうはいっても、暑さにも限度はありますけどね。
ということで、人間の身体はどちらかというと【寒さ】に弱いので、それ応じて『寒さに対して常に警戒する』ようになっているのです。
だから、ほとんどの人は【暑い】よりも【寒い】方が苦手なんですよね。
寒い中に長時間いると、寒さで震えてきますし、手もかじかんできます。
そんなところにピューって北風が吹いてごらんなさいよ、もはや法事どころじゃないでしょ?
寒くて仕方ないのに、心から故人を偲ぶことなんかできるわけがない。
法要中はひたすら寒さに耐えているだけなんて、それじゃまるで『罰ゲーム』ですよ。
じつは以前、僕が墓前法要をしていた時に高校生の女の子が『低体温症』で倒れちゃったことがあるんですよ。
その時は、いったん法要を止めて、すぐに暖房の効いた室内に入ってもらい、毛布で身体を包んで横になってもらいました。
このように、寒い中で法事をするのはけっこう大変なことなんですよ。
それに、寒い中で法事なんかやっても、結局はまた、
っていう参列者全員の無言の訴えが届いてくるんですよね。
・・・だから、墓前法要なんかしなけりゃいいのに。
法要中はずっと立ちっぱなし
あなたの墓地には常に【イス】が置いてありますか?
・・・んなモンあるわけないですよね?
ですから、お墓の前で法事をするということは、
法要中はずっと立ちっぱなし
になります。
回忌法要って、普通にやったら30〜60分くらいはかかりますよ。
その間、参列者のみんなはずっと立っていなきゃいけません。
あなたくらいの年代なら立っていられるでしょうけど、もっと高齢の方だとけっこうシンドイはず。
しかも、そこに【暑い】とか【寒い】みたいなことがプラスされたらどうでしょう?
立っていることがツラくて故人の供養に集中なんかできやしませんよ。
それで結局は、長い時間立ちっぱなしでいるとだんだん疲れてきて、
っていう参列者全員の無言の訴えが届いてくるんですよね。
・・・だから、墓前法要なんかしなけりゃいいのに。
位牌・遺影・供物などを置くスペースが少ない
法事をする時には、
- 位牌
- 写真
- 供物
- 花
- お香
が必要です。
お寺の本堂や施主の自宅であれば、それらを置くスペースがちゃんとあります。
しかし、お墓の前となれば、
位牌・遺影・供物を置くスペースが少ない
ので、まぁまぁ不便です。
ちょっとしたスペースにいろいろと置かなきゃいけないので、どうしてもバランスが悪い不安定な置き方になってしまいます。
だから、風が吹くと位牌なんかは倒れてしまうことがあるんですよね。
位牌は木製なので、倒れた時に墓石の角に当たると傷やヘコみができてしまいます。
位牌だって安い物ではありませんから、少しくらいの傷やヘコみくらいでわざわざ作り直すことはしません。
でも、仏壇に手を合わせるたびにそれを見て、
なんて思い出してしまうことでしょう。
・・・だから、墓前法要なんかしなけりゃいいのに。
墓前法要を良く思わない親戚もいる
法事の時には親戚を招くこともあるでしょう。
法事をする時は【故人と関係の近い親戚】には一応声をかけておいた方がいいですよ。
最近では、「法事は身内だけでやりたい!親戚を呼ばないで法事をする時の注意点」という人が非常に多いです。
それで、やたらと人数を減らすことだけを考えている人がいますが、故人の兄弟など『本当に故人の冥福を祈っている人』には声をかけておくべきですよ。
しかし、
墓前法要を良く思わない親戚もいる
ので注意してください。
『墓前法要』に対して【簡略化した法要形態】というイメージを持つ人はまだまだ多いからです。
まぁ、実際に簡略化した法要形態なんですけどね。
親戚としても、普通に《室内での法要》だと思って参列したのに、じつは墓前法要だと分かった時には、きっと驚きとともに不満が出るに違いありません。
しかも天候が悪かったりなんかしたら、その法事の印象は最悪なものとして残ってしまいます。
そして、それは後になってからも、
って、ずっと言われ続けます。
・・・だから、墓前法要なんかしなけりゃいいのに。
お坊さんに断られる可能性がある
最後にこれは【お坊さん側】の話です。
お坊さんの勝手な都合なんですけど、こだわりの強いお坊さんの場合は『墓前法要』をやりたがりませんよ。
先ほども言いましたが、墓前法要は【簡略化した法要形態】です。
「法事はあくまでも『ご本尊様』の前で行うものだ」と考えるお坊さんにとっては、墓前法要が【法事としての意味をなしていないもの】に思えるのです。
また、この記事で今までさんざん書いてきたように、お坊さんは【墓前法要はデメリットの方が大きい】ということをよく知っているので、なおさらやりたがりません。
ですから、いくらあなたが墓前法要を希望しても、場合によっては、
お坊さんに断られる可能性がある
ということを知っておいてくださいね。
ちなみに、僕は施主の希望であれば墓前法要をちゃんとやりますよ。
でも、本音としては「うわ~嫌やなぁ・・・。」と思っています。
そして、僕と同じように思っているお坊さんは多いですよ、間違いない!
だから、墓前法要はヤメておきましょう。
まとめ:墓前法要はデメリットの方が多いからヤメよう
お墓の前で法事などを行うことを『墓前法要』といいます。
『墓前法要』は昔からある法要形態ですが、以前まではあまり行われることがありませんでした。
しかし、ここ数年で『墓前法要』を選ぶ人が急増しています。
これは、
- 法事をできるだけ簡素化したい
- 新型コロナウイルス感染対策をしよう
という思いがあるからです。
墓前法要は、とにかく【簡素化】できるという大きなメリットがあります。
しかし、一方で、
- 天候の影響をモロに受ける
- 法要中は立ちっぱなし
- 位牌・遺影・供物などを置くスペースが少ない
- 親戚から嫌がられる
- お坊さんに断られる可能性がある
というようにデメリットもあるんですよね。
というか、ハッキリ言って、
墓前法要はデメリットの方が多い
のです。
ですから、僕としては『墓前法要』はおすすめしません。
法事は【故人の供養】のために、できるだけ『心静か』に執り行ってほしいのです。
しかし、墓前法要は気になることが多くて、とても『心静か』ではいられなくなるんです
やむを得ない事情がないかぎり『墓前法要』はヤメておきましょう。