生きている間に授かる戒名のことを【生前戒名】といいます。
生前戒名をつけると、お葬式のときに『お坊さんへ渡す費用』を軽減できたり、『自分の戒名』を自分自身で確認できます。
そのため、近年では生前戒名を希望する人が増加中です。
じつは、お坊さんの僕としても、生前戒名にはメリットが多いと思っています。
この記事では以下について解説しています。
- 『生前戒名』というのは変?お坊さんが考える本来の意味
- 大きなメリットと、注意すべき意外なデメリット
- 【相談多数】生前戒名に関するよくある質問
お坊さんの僕が、実際に質問された内容をふまえて解説していますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
未熟僧生前戒名は『終活』の1つとして考えましょう。
この記事を書いている僕『未熟僧(みじゅくそう)』は、お坊さん歴25年以上。仏事の疑問を解消するいろんな情報を発信しています。
お坊さんから見た『生前戒名』
生前戒名とは、生きている間に授かる戒名のことをいいます。
一般的に、戒名は亡くなった人に授けられますが、それを生前に授けることから【生前戒名】と呼ばれています。
でも、じつは【生前戒名】というのは不自然な言葉なんですよね。
なぜなら、本来であれば、戒名は生きている間に授かるものだからです。
戒名とは、仏道に入って修行をする人の名前であり、戒名を授かった人は『戒律=修行中の約束事』を守らなければなりません。
ですから、戒律を守る者の名前という意味で『戒名』といいます。
そして、仏道に入り戒律を守って修行をするのはいつかというと、それは生きている間です。



僕は仏道に入った【僧侶】なので、今まさに修行中です。
つまり、戒名は【生前】に授けるのが当たり前で、『死後』に授けることの方が不自然なんですよね。
では、なぜ亡くなった人に戒名を授けているのでしょうか。
本来なら生きている間に仏道に入るべきなのですが、それができる人は多くありません。
そのため、仏式のお葬式をすることで、故人に急いで仏道に入ってもらうのです。



故人が『亡くなる直前に仏道に入った』ということにするんです。
ギリギリのところで仏道に入った故人に戒名を授け、仏様に守っていただけるようにするのが日本の仏式のお葬式です。
生前戒名の大きなメリットと意外なデメリット
生前戒名をつけてもらうかどうかは自由に選べますが、その前に生前戒名のメリットとデメリットを理解しておきましょう。
生前戒名の大きなメリット
生前戒名のメリットは、
- 『自分の戒名』を自分で確認できる
- お葬式のときにお坊さんへ納める費用が減らせる
- すでに戒名をつけたという安心感がある
- 先に墓石へ戒名を彫刻しておける
などがあります。
『自分の戒名』を自分で確認できる
生前戒名の最大のメリットは『自分の戒名』を自分で確認できることです。
先ほども言いましたが、一般的には、亡くなった人に対して戒名をつけます。
そのため、亡くなった人は『自分の戒名』を自分で確認することができません。



『自分の戒名』を自分で見られないなんて、空しいというか無意味というか…。
しかし、生前戒名ならちゃんと自分で確認できるので、納得した上で戒名を受け入れられます。
ちなみに、どうしても戒名に不満があった場合、とても言いにくいとは思いますが、お願いすれば戒名を変更してもらえますよ。
でも、そのときはよく言葉を選んで、慎重にお願いをしてくださいね。
お葬式のときにお坊さんへ納める費用が減る
生前戒名をつけると、お葬式のときにお坊さんへ納める費用が減ることがメリットになります。
戒名をつけるためには、お坊さんに『戒名料』を納めなくてはいけません。
なので、生前戒名をつけてもらうときには、そのタイミングで戒名料を納めます。
そうすると、実際にお葬式をするとき、お坊さんへ納めるお布施は『戒名料抜きの金額』だけですみます。
つまり、生前戒名をつけて戒名料を先に納めておくことで、お葬式のときに戒名料の分だけ家族の金銭的負担を減らすことができるのです。
先に納めるか、お葬式のときに納めるかというタイミングの違いだけですが、数万円~数十万円の戒名料を家族に負担させずにすむのはメリットです。
ちなみに、戒名料は【位の高さ】によって納める金額が変わりますので、位の高い戒名ほど『先に戒名料を納めておく』ことの効果は大きくなります。
戒名料については後述しますので、このまま読み進めてください。
「すでに戒名をつけた」という安心感がある
生前戒名をつけてもらうと、「すでに戒名をつけた」という安心感があるのがメリットです。
これは、戒名料を先に納めたことによる金銭的な安心感だけではなく、【やるべきことを1つ終わらせてある】ことへの安心感です。
先に戒名をつけてもらっていれば、少なくとも戒名に関する心配事はなくなるので、それだけ本人はもちろん、家族も安心です。
先に墓石へ戒名を彫刻しておける
生前戒名をつけておけば、先に墓石へ戒名を彫刻しておけるというメリットがあります。
一般的には、お墓へ納骨するにあたり、故人の戒名を墓石に彫刻します。
なので、すでにお墓があるなら、先に戒名を彫刻しておくこともできるんですよね。
先に戒名を彫刻しておくと、【夫婦が隣同士となるように戒名を彫刻するときのミス】を防げます。
具体的に説明をします。
基本的に、墓石の側面などへ戒名を彫刻するときは、先に亡くなった人から順番に右から左へ彫っていきます。
しかし、夫婦は隣同士となるように彫刻することが多いため、その場合は2人分のスペースを確保しなければなりません。
ところが、ときどき夫婦の戒名が離れて彫刻されてしまうことがあるんですよね。
例えば、夫が亡くなり、妻は健在だとしましょう。
この場合、夫の戒名のすぐ左隣に妻の戒名を彫刻するために、妻の分のスペースを空けておく必要があります。
ところが、妻が亡くなる前に他の家族が亡くなった場合、誤って夫のすぐ左隣(妻の分のスペース)に他の家族の戒名を彫刻してしまうことがあるんです。
そうなると、夫婦の戒名が隣同士になれません。
一方で、生前戒名をつけて、先に墓石へ彫刻しておけばちゃんと夫婦を隣同士にできます。
じつは、墓石に彫刻された文字を彫り直すこともできます。
しかし、それには石の表面を全部削ってからすべての文字を彫刻し直すことになるため、墓石の厚さが薄くなるうえに、彫刻する数が多いので費用も大きくなってしまうのです。



ミスを防ぐには生前戒名を彫刻しておく方がいいかもしれませんね。
ちなみに、生前戒名を墓石に彫刻する場合、すでに亡くなっている他の人と区別ができるように、戒名の名前に相当する部分だけ赤文字に塗るのが一般的です。
ただし、亡くなった年月日や年齢は未確定なので、彫刻されません。
そのため、死亡年月日や年齢は後から彫刻することになるので、再度料金が発生することが多いです。
生前戒名の意外なデメリット
生前戒名にはメリットが多いですが、注意しなくてはいけない意外なデメリットもあります。
つけた戒名を忘れないようにしなくてはいけない
生前戒名をつけた場合、つけた戒名を忘れないようにしなくてはいけないというデメリットがあります。
生前戒名をつけるときに、多くのお寺では生前戒名を記した書類を申込者へ渡しています。
本人や家族が生前戒名を覚えていれば問題ありませんが、そうでない場合は書類を紛失してしまうと、どんな戒名をつけたのか分からなくなります。
生前戒名をつけてすぐに墓石へ戒名を彫刻していれば大丈夫ですが、多くの人は生前戒名をつけてもらった後は特に何もしていません。
そのため、ちゃんと生前戒名を覚えておく、または生前戒名を記した書類を紛失しないようにしなくてはいけません。
もしも生前戒名が分からなくなった場合はお寺に聞けば確認できますが、長い年月が経過していると、お寺の方も生前戒名を授けた履歴が消えてしまっていることもあるのです。
お寺に少し嫌がられる
生前戒名というのは、もしかするとお寺に少し嫌がられる可能性があります。
生前戒名をつけた本人が戒名を忘れてはいけないように、お寺側も生前戒名を記録しておかなくてはいけません。
しかし、生前戒名をつけてから、実際に亡くなるまでの期間が長かった場合、まれに、生前戒名の記録がなくなってしまうことがあります。



誤って廃棄してしまったり、火災による焼失などですね。
生前戒名の管理をする手間が増えるため、お寺によっては生前戒名を嫌がるところもあるんです。
また、生前戒名をつけるときは、その時点で戒名料を先にお寺へ納めます。
すると、お葬式のときには戒名料以外のお布施を納めてもらうことになります。
そうすると、お葬式のときになってお布施が少なくなったような気がして、それを嫌がるお坊さんもいるんですよね。
とはいえ、これはお寺側の感覚の問題だけであり実際には全額納めているので、あなたは何も気負うことはありません。
お寺側がしっかりと管理すればいいだけの話なので、遠慮なく生前戒名をつけてもらいましょう。
生前戒名料の金額の相場はどのくらい?
生前戒名をつけるためには、お寺に『生前戒名料』を納める必要があります。
生前戒名料というのは、要するに【戒名料】のことなので、生前戒名料の相場を調べるときには戒名料の相場を調べればOKです。
戒名料は、お寺や宗派、そして地域によってまったく違いますが、あえて相場を出してみると以下のとおりです。
| 戒名 | 戒名料(法名料) |
| 釋・釋尼 | 20万円程度 |
| 信士・信女 | 10万円~50万円 |
| 居士・大姉 | 30万円~80万円 |
| 院信士・院大姉 | 35万円~100万円 |
| 院居士・院大姉 | 50万円~上限なし |
このように、戒名料は大きな金額です。
生前戒名をつけておけば、いざというときに家族の負担を減らすことができます。
生前戒名をお墓に彫刻する場合は赤文字が入る?
お墓を持っている人は、生前戒名をつけたときに墓石へ戒名を彫刻することもあります。
生前戒名を彫刻する場合、戒名の一部分だけを『赤文字』に塗るのが一般的です。
こうすることで、すでに亡くなっている他の家族の戒名と見分けがつきます。
赤文字を塗るのは、戒名の中にある【本人の名前からとった漢字一文字】の部分です。
戒名をつけるときには、故人の名前から漢字を一文字もらうことが多いのですが、そうすることで誰の戒名なのかを判別しやすくなります。
では、なぜ生前戒名の場合は名前の部分を赤く塗るかというと、本人がまだ生きているからです。
名前の部分を赤く塗ることで、本人が生きている、つまり血が通っていることを意味しているんですよね。
なので、やがて本人が亡くなったときには赤色をはがし、すでに亡くなっている他の家族と同じようにします。
ちなみに、生前戒名を彫刻するので、当然ながら亡くなった年月日や年齢は彫刻できません。
そのため、後から死亡年月日や年齢を彫刻することになるので、改めて彫刻料金が発生することはご承知おきください。
【関連記事】:どんな意味があるの?お墓に赤い文字が彫られている理由
生前戒名は自分でつけてもいいの?
戒名は【お坊さんだけがつけられる】というものではありません。
じつは、戒名は誰でもつけられます。
あなたの好きな漢字を使えるので、希望通りの戒名を自分で作れるんです。
とはいえ、漢字なら何でも使えるというわけではありません。
基本的に戒名には【動物を連想させる漢字】を使わないんですよね。
仏教において、人間以外の動物は人間よりも下位の世界に生きている、と考えています。
そのため、仏になることを目指して修行をする者の名前に『動物を連想させる漢字』を使えないのです。
ただし、鶴、亀、龍など『縁起の良い動物』の場合は使うこともあります。



縁起の良い動物は、人の名前にもよく使われますので、そのまま戒名に使用することも多いです。
また、戒名には適切な文字数(2~10文字程度)があるので、あまりに文字数が多い戒名は好ましくありません。
その他にも宗派によって細かいルールがあるので、戒名はお寺につけてもらう方が無難でしょう。
【関連記事】:自分の戒名は自分自身でつけてもいい。戒名のつけ方と構成を解説。
生前戒名に関してよくあるトラブル
生前戒名をつけること自体は何の問題もありません。
しかし、それは『あなたがどこのお寺とも付き合いがない』ことが条件です。
もしもあなたに『菩提寺(ぼだいじ)』がある場合は十分に注意してください。
生前戒名に関してよくあるトラブルは、菩提寺以外のお寺で勝手に生前戒名をつけた、というケースです。
あなたの家のお墓がお寺にあるなら、そのお寺があなたの家にとって『菩提寺』となります。
菩提寺は、あなたの家のお墓を守り、あなたの家の仏事全部を担う立場なんですよね。
そのため、もしも菩提寺以外のお寺で戒名をつけた場合は、菩提寺との重大な約束違反となってしまいます。
菩提寺とのトラブルが解決しなければ、最悪の場合はお墓を撤去し、墓地を返還しなくてはいけません。
なので、生前戒名をつけるときは必ず菩提寺にお願いしてくださいね。
まとめ
生前戒名は、生きている間につける戒名のことです。
生前戒名は菩提寺につけてもらうことをおすすめしますが、自分でつけることもできます。
生前戒名のメリットは、
- 『自分の戒名』を自分で確認できる
- お葬式のときにお坊さんへ納める費用が減らせる
- すでに戒名をつけたという安心感がある
- 先に墓石へ戒名を彫刻しておける
などです。
反対に、デメリットとしては、
- つけた戒名を忘れないようにしなくてはいけない
- お寺に少し嫌がられる
などがあります。
戒名は、生前でも亡くなった後でも、どのタイミングでもつけられます。
もしも、家族に負担をかけたくない人は、生前戒名をつけてもらい、お葬式でのお布施を少しでも減らしておきましょう。
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