お坊さん歴20年以上の未熟僧と申します。
- 亡くなった自分の親のお骨を、兄弟や姉妹で分けたい。
- 以前に「分骨は良くない」と言われ、分骨するかどうかで迷っている。
- 分骨の手順が分からない。
- 分骨した後に、お骨をどのように供養すればいいのか知りたい。
亡くなった人のお骨を複数人で分けて持つことを『分骨』といいます。
最近では分骨を希望する人が増えてきました。
しかし、一部の人たちは「分骨は良くないことだ。」と言っており、それを聞いて分骨することが不安になってしまう人も多いです。
結論から言うと、分骨しても何の問題もないですよ。
じつは、『分骨は良くない』と言われるのは、大きな勘違いが引き起こした【単なる迷信】なんです。
この記事は、
- 分骨をしてもよい理由
- 分骨をするときの手順
- 分骨した後の供養の方法
について書いています。
本当の意味で【分骨とはどういうものか】が分かりますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
分骨は良くないって本当?

この前、僕のいる寺に1人の女性が訪ねてきて、こんなことを相談されました。
この度、私の母が亡くなりました。
母のお骨は、〇〇県にある私の実家近くのお墓に納骨するつもりです。
でも、私は結婚をしていて、今住んでいる所からそのお墓までとても遠いんですよね。
だから、納骨した後、そんなに頻繁にはお墓参りに行けないんです。
それで、母のお骨の一部を分けてもらって、それを私の自宅に置いておきたいなと思っているんです。
でも、以前に「お骨を分けることは良くないんだよ。」と言われたことがあって・・・。
お骨を分けちゃってもいいのか心配なんですけど・・・どうなんでしょう?
あなたも、この女性と同じことを考えているのではないですか?
分骨をしても問題なし、むしろ良いことです。
結論から言います。
分骨をしても問題ありません、というか、むしろ、分骨は『良いこと』です。
なぜ「分骨は良くない」なんて言われているのか、僕にはさっぱり分かりません。
だって、故人のことを本当に大切に考えているからこそ『お骨の一部を自分の手元に置いておきたい』と思うわけじゃないですか。
そこにはきっと、
故人を身近に感じていたい、もっと近くで供養をしたい。
というような気持ちがあるはず。
そういう気持ちって、ご先祖様を含めて亡くなった人を供養をする上で非常に重要なものですよ。
そういう心から『故人を供養したい』という気持ちのある人のところにこそお骨を置いておくべきなんですよ。
もしもそれが複数人いるのなら、ちゃんとその人数分だけお骨を分けてあげるべきです。
故人だって自分のことを大切に思ってくれる人が多ければ喜びますよ。
つまり、分骨することは、故人にとっても、残された家族にとっても【良いこと】なんです。
というか、仏教を世に広めたお釈迦様のお骨だって、それをお弟子様達が分けて持ち帰り、それぞれに建てた仏塔へお骨を納めて、それに向かって手を合わせていたんですからね。
少なくとも仏教的には分骨が一切問題ないことであるのは確かですね。
だから、分骨をすることは【良くないこと】なんかでは決してありません。
『分骨は良くない』と言われるのはなぜ?
どうして、『分骨は良くない』と言われているのでしょう?
じつはコレ、お骨というものに対する【大きな勘違い】が原因なんです。
「分骨は良くない」と言われるのは、
お骨には故人の魂が宿る
と考えているからなんですよ。
つまり、
- お骨を分けることは【故人の体を分けること】と同じである。
- だから、お骨をいろんな所へ分けて置いてしまうと、故人の魂がどこに宿ればいいのか迷ってしまう。
という理屈です。
たしかに、お骨というのは【故人がこの世に生きた証】なので、お骨を『故人そのもの』として考えたくなります。
まぁその気持ちは分かりますよ、でもね、
お骨に故人の魂は宿りません。
言い方は悪いですが、お骨は【故人の抜け殻の一部】にすぎないんですよ。
では、仮に故人の魂がお骨に宿るとしましょう。
だとしたら、故人のお骨は骨壺になんか入れちゃダメですよ。
だって、あんなに狭い所へお骨を入れたら、故人にメチャクチャ窮屈な思いをさせるじゃないですか。
しかも、多くの場合は、それをお墓の中に入れちゃうんですよ?
お骨に故人の魂が宿るのなら、もっと明るくて広いところに遺骨を置かなきゃね。
あなたもそう思わないですか?
でも、実際にはそれをしないのは、なぜなんでしょうね?不思議ですよねぇ?
だから、遺骨に故人の魂が宿るなんていうのはウソなんですよ。
どこかの誰かが勝手に言ったことが、いかにもそれっぽく広まってしまったんです。
要するに【迷信】ということですね。
じゃあ、故人の魂はどこに宿るのかって思いましたか?
故人の魂は、【お墓】や【位牌】に宿るのです。
お墓や位牌を通じて、故人と繋がり合うことができます。
お墓については『お墓の意味や役割とは何?お墓参りでお墓はパワースポットに育つ?』の記事で詳しく説明していますので、一度読んでみてください。
また、お墓と位牌にはとても重要な関係性があります。
お墓と位牌って、何となく形が似ていると思いませんか?
じつは、位牌というのは【お墓の縮小版】なんです。
つまり、位牌はお墓と同じような働きをしているのです。
位牌については『位牌とは何なの?位牌の意味や必要性をお坊さんが解説します。』の記事に書いてありますので、こちらも読んでみてください。
分骨は法的にも問題なし!
お骨に故人の魂が宿らないことはお分かりいただけたでしょうか?
じゃあ、お骨を分けることに対するもう1つの不安材料がありますよね。
そうです、分骨が【法的に問題はないのか】ということです。
大丈夫ですよ、
分骨は法的にも問題はありません
から。
お墓に関する法律に『墓地、埋葬等に関する法律』がありますけど、そこに【遺骨は分けることができない】なんていう項目はないです。
だから、家族や親族でちゃんと話し合いをして、それで分骨をするのであれば、お骨に関してはべつに法律は関与しませんよ、ってことです。
ということで、
- 遺骨に故人の魂が宿るわけではない
- 法的にも遺骨を分けることは何の問題もない
わけですから、分骨をしちゃいけない理由なんて無くないですか?
分骨をしちゃダメなのは、
『家族で十分な話し合いがされていない』
という場合だけですよ。
話し合いもせずに、みんなが勝手に遺骨を持って行ってしまったら、それはさすがにトラブル必至ですからね。
そのようなことさえなければ、分骨をしてもまったく問題ありませんので安心してくださいね。
分骨の手順
ここからは【分骨の手順】について紹介します。
分骨は、
- 納骨する前
- すでに納骨した後
のどちらかのタイミングで行います。
納骨する前に分骨をする場合
分骨をするタイミングの1つめは『納骨をする前』です。
これは、火葬をした段階で分骨することが決まっているケースが多いですね。
火葬をした段階で分骨することが決まっているなら、
葬儀社に分骨する旨を伝えておく
ようにしてください。
そうすれば、葬儀社の方から火葬場へ分骨の依頼をしてくれます。
故人のお骨は、遺族の希望する数だけ分けてもらえますので、何人で分けるのかを葬儀社へ伝えてください。
また、分骨をする数だけの骨壺を用意してもらえますよ、もちろん有料ですけどね。
そして、火葬場からは、故人のお骨を分けた証として、
『分骨証明書』
が分骨をした数だけ発行してもらえます。
ここで大事なのが、分骨するつもりなのであれば、葬儀社へ《必ず事前に伝える》ということです。
火葬場に着いてから「やっぱり分骨したいです。」なんて言っても遅いですよ。
火葬場の『分骨証明書』がすぐには発行されませんし、分骨用の骨壺だって急に用意なんかできませんからね。
ちゃんと事前に、つまり【お葬式の打ち合わせ】の段階で伝えてください。
もしも、お葬式の段階で分骨するかどうかを決められない場合は、とりあえず必要となりそうな数だけ分けておいてもらいましょう。
最初に分けてあるお骨を後で1つにまとめるのは簡単です。
大きな骨壺を1つ購入して、そこへ納めればいいのですから。
とはいえ、後々のトラブルを避けるために、分骨については、できるだけ故人が存命中に家族で話し合っておくことをおすすめします。
すでに納骨したお骨を分骨する場合
分骨をするタイミングの2つめは、『すでに納骨をした後』です。
例えば、
最初は分骨をするつもりがなかったので、すでにお墓へ納骨をした。しかし、事情により数年後に分骨をすることになった。
みたいなパターンです。
墓地の管理者から『分骨証明書』を発行してもらう
一度お墓へ納骨したお骨を分けるためには、その墓地の管理者に『分骨証明書』を発行してもらう必要があります。
管理者というのは、個々のお墓の使用者のことではありません。
【お寺】や【霊園】あるいは【地域の集合墓地】などには、墓地全体を管理する『管理者』がいます。
または、順番に交替しながら管理者を務めていくような『管理組合』があったりもします。
お墓からお骨を出して、それを分骨する場合は、そのような『管理者』から分骨証明書を発行してもらうのです。
これによって、無許可で勝手にお骨を分けたのではない、ということを証明します。
また、分骨したお骨を、どこか他のお墓へ納骨する場合には、分骨証明書だけではなく市町村役場が発行する『改葬証明書』が必要です。
そして、この『改葬証明書』には墓地の管理者の署名&捺印が必要となります。
このように、分骨は【ただお骨を分けるだけ】というわけにはいきませんので注意をしてくださいね。
石材店に依頼して、お墓からお骨を取り出してもらう
分骨をするにあたり、まずはお墓の中からお骨を取り出さなければなりません。
お骨を取り出す作業は、自分でやらずにちゃんと石材店へ依頼をしてください。
墓石というのはとても重そうに見えますよね?
そうです、その通りです、メチャクチャ重いです。
とにかく硬くて重いです。
そのくせ『墓石の角』の部分だけは非常に弱くて、ぶつけると簡単に欠けてしまうのです。
だから、墓石の扱いに慣れていない人は、まずは想像以上の重さに驚いて、それから石を上手く動かすことができずに『墓石の角』をぶつけます。
それで、結局は高額な修理代金を支払うハメになります。
悪いことは言いませんから、分骨のためにお骨を取り出すときは、作業を石材店に任せましょう。
お骨を分けるときには、お坊さんに供養してもらうのがベスト
お墓から取り出したお骨を分けるときには、できるだけ、
お坊さんに供養をしてもらう
ようにしてください。
お骨を取り出して、必要な数に分けたら、そのうちの1つはまた同じお墓へ戻しますよね?
つまり、それはもう一度『供養』をする必要があるんです。
もしかすると、
「えっ、最初の納骨のときに供養をしたんだから、もう一度やんなくてもいいんじゃない?」
と思ったでしょうか?
いいえ、もう一度『供養』をしてください。
お墓というのは、この世とあの世を結ぶものです。
そんな神聖な場所で、お骨を取り出したり、またすぐに納骨したりと、いろいろと【お騒がせ】をするんです。
ちゃんとお坊さんに供養をしてもらって、お墓を経由してご先祖様や亡き家族にお詫びをしてくださいね。
分骨した後はどうするの?

分骨の手順も分かり、家族との話し合いも終わりました。
これで、分骨をすることができます。
じゃあ次は、【分骨をした後はどうすればいいのか】を考えておきましょう。
まずは分骨用の骨壺を用意する
分骨することが決まったら、まずは分骨用の骨壺を用意してください。
先ほども言いましたが、火葬場で分骨をする場合は、事前に葬儀社へ伝えておけば必要な数の骨壺を用意してもらえます。
しかし、火葬場ではなく、もっと後になってから分骨をする場合は、ちゃんと分骨用の骨壷を購入してください。
あっ、お骨はちゃんと骨壺に納めてあげてくださいね。
あなたの大切な人のお骨ですからね、まさかタッパーとか真空パックに入れておくわけにはいきませんよね。
まぁ、あなたはそんなことはしないでしょうけど。
お骨をちゃんと骨壺に納めて供養をしてあげるのが故人に対する最低限の礼儀です。
それができないなら分骨なんかしてはいけません。
分骨用の骨壺は、仏具店やインターネットで購入できます。
故人のイメージに合った骨壺を選んであげましょう。
でも、1つ注意してほしいことがあります。
それは、間違えて【ペット用の骨壺】を購入しないということです。
骨壺には、サイズが小さくて色彩豊かな可愛らしいモノがたくさんあるんですよね。
でも、それはもしかすると【ペット用の骨壺】かもしれませんよ。
ですから、購入する前には必ず確認をしてくださいね。
よく確認せずに買ってしまうと、【ペット用の骨壺に故人の遺骨を納める】なんていう非常に失礼なことをするハメになりますからね。
人の遺骨をペット用の骨壺へ納めることは、人を無理矢理に犬小屋へ住まわせるの同じですよ。
購入する際に、用途の記載のどこかに『ペット』の文字がある場合、僕ならその骨壺は除外します。
だって、それって【人骨でもペットの遺骨でも両方に使えます】という意味ですよ?
それって、なんか嫌じゃないですか?
もちろん、ペットも家族の一員なので、ペット自体を軽んじるわけではないですよ。
でも、骨壺は人とペットをしっかりと区別するべきだと僕は思います。
あなたはどう思いますか?
あなたの大切な人の遺骨を納める骨壺なんですから、ちゃんと【人骨専用】の骨壺に納めてあげてください。
分けたお骨を他のお墓に納骨する
分けたお骨は、お墓へ納骨せずに自宅で保管する場合もあるでしょう。
その場合、自宅で故人を身近に感じながら心をこめて手を合わせましょう。
でも、もしも、
分けたお骨をどこか他のお墓へ納骨する
という場合には、お坊さんへ依頼して供養をしてもらうようにしましょう。
先ほども言いましたが、お骨をお墓へ納骨する場合は、必ず『供養』をします。
これは、墓地のある土地におられる神様へのご挨拶、そして、お墓を通じてご先祖様やさまざまな仏様へ【新たな遺骨が納められること】を報告するんですよね。
何もせずにお墓へ遺骨を納めてしまうと、土地の神様やご先祖様は「えっ?」ってなりますし、あなただってその後も気になりませんか?
ですから、とにかくお骨をお墓に納める時はちゃんと『供養』をする、ということは忘れないようにしてください。
そして、分けたお骨を他の墓地に納骨する場合は、
『分骨証明書』
が必要になります。
火葬場で分骨をした場合は、火葬場に『分骨証明書』を発行してもらっているはずなので、それを納骨先の墓地の管理者に提出をしてください。
すでに納骨したお骨を分骨する場合は、納骨している墓地の管理者に『分骨証明書』を発行してもらい、それを新たな納骨先の墓地の管理者に提出をしてください。
手元供養をする
分骨したお骨は、無理にどこかのお墓へ納骨する必要はありません。
自宅に安置しても問題はありません。
いつでも故人を近くに感じていたいから分骨をしたという人も多いですからね。
近年では、お骨を自宅に置いておく形式の、
『手元供養』
という方法も定着してきました。
その流れを受けて、以前はほとんどなかったような手元供養専用の骨壺や飾り台なんかもたくさん販売されています。
故人の好きだった色や形を選んでもいいですし、完全にあなたの好みで選んでもいいでしょう。
あなたのすぐ近くで心を込めて手を合わせてあげるのも立派な供養ですよ。
海洋散骨をする
分骨をする目的の1つとして、
海洋散骨をするため
があります。
最近では、故人のお骨を海にまく『海洋散骨』という散骨の方法が注目されています。
いろんな生命は海から生まれているので、生命の始まりである【海】にお骨を帰すというコンセプトですね。
数年前は専門の業者だけが海洋散骨を請け負っていましたが、今では葬儀社の提案するプランの1つとして紹介されるようになってきました。
これからも海洋散骨を希望する人は増えていくでしょう。
散骨をする人の多くは、
故人が生前から海洋散骨を希望していた
という理由です。
しかし、いくら故人の希望で散骨するとはいえ、家族の気持ちとしてはお骨を全部まくことなんてできないでしょう。
そこで、分骨をして、お骨の一部だけを散骨するという人がほとんどなのです。
この方法であれば、故人の希望も叶えつつ、残された家族も納得して散骨ができますよね。
ただし、海洋散骨には1つクリアしなければいけないことがあります。
それは、
故人と関係の近い親戚の同意を得る
ということです。
そもそも分骨をすること自体も、故人と近い関係にある親戚には同意を得ておくべきですが、それが散骨するとなればなおさらのこと。
一度まいてしまったお骨は二度と戻ってきませんので、後々のトラブルを避けるためにも、家族だけで決めてしまわず親戚の同意を得るようにしましょう。
分けたお骨を本山に納骨する
地域によっては、故人のお骨を分けて、その一部を、
その家で信仰する宗派の【本山】へ納骨する
という習慣があります。
宗派の本山へ納骨する場合は、事前に本山へ連絡してしっかりと手順を確認しましょう。
何の連絡もせずいきなりお骨を持って行ったり、一方的にお骨を送ってしまってはいけませんよ。
ちなみに、本山で納骨をする場合、多くは【合祀(ごうし)】という方法での納骨となります。
合祀というのは、要するに、
他の人のお骨と一緒に埋葬される
ということです。
本山としても、日本全国の何万人分ものお骨を埋葬するのですから、どうしても合祀になってしまうのです。
お骨の一部とはいえ、大切な人のお骨がまったく見ず知らずの人のお骨と一緒になるのです。
それを許容できるのであれば、本山に納骨するというのも意義のあることです。
まとめ:分骨は何の問題もない!むしろ良いことなので安心して分骨をしてください。
分骨は、自分にとって大切な人の一部を手元に置いておくことです。
分骨は決して、【良くないこと】なんかではないですよ。
分骨をしても、まったく問題ありません。
たまに、
「お骨を分けることは、故人の魂が宿る場所を分けることだから、分骨はダメなんだ。」
なんて言う人がいますが、お骨に魂が宿るわけではないですよ。
お骨は、あくまで故人の【抜け殻】にすぎません。
それに、大切な人のお骨を分けることは、お釈迦様のお弟子さん達もしていたことですからね。
だから、宗教(仏教)的に分骨はまったく問題のないことなんですよね。
もちろん、お骨を分けたって法的にも何の問題もありません。
ですから、分骨は宗教的にも法的にもまったく問題ないわけなので、【分骨は良くない】という理由が無いんですよ。
ご家族と十分に話し合いがされて、それで分骨をするのであれば大丈夫です。
というわけで、安心して分骨をしてくださいね。